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   ・・・・・ 第93・・・・・ 

障がいのある人に、

まず情報と

機会の保障を

特定非営利活動法人

デフサポートおおさか 

山口 八千代 さん (写真左端)

 

 
sub_ttl00.gif  日常的に出会い、交流できる場として

 

 NPO法人デフサポートおおさかとしてスタートしたのは2007年ですが、活動自体は1984年から始まりました。「草の根ろうあ者こんだん会」として、聴覚障がい者の自立や権利拡大、聴覚障がい者と聴者(耳の聴こえる人)がお互いの存在を認め合える社会、そしてすべての人にとってバリアフリーな社会を目指してきました。当事者による当事者のための活動という理念は今も変わらず、理事も聴者は一人だけです。

 

 1995年に阪神淡路大震災が起こり、聴覚障がいのある人たちは情報が入らず、さまざまな場面で取り残されました。日頃からの横のつながりがとても大事であることを痛感し、日常的に交流したり情報交換したりできる場所をと大阪市からの助成を受けて作業所を立ち上げ、現在「大阪市地域活動支援センター デフ・ワークス」に至っています。そして軽作業や手芸製品の制作、カフェの運営などをおこなっています。

 

 カフェは「デフカフェ 手話楽々」と名付け、聴覚障がいのあるメンバーに接客の仕事を提供すると同時に、聴者との出会いや交流の場として大切にしています。ワンコインレッスンとして500円で30分間、マンツーマンで手話の個人レッスンを受けることもできます。別に手話教室も開いています。

 

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 コミュニケーションを怖れないで

 

 手話に関心をもつ人は多く、手話教室のニーズは高いのですが、少し手話で話せるようになってもそれを生かせる場が少ないのが現状です。そのため、ある程度習得したら離れてしまう人もいます。デフカフェはそんな人がせっかく学んだ手話を使える場でもあります。カフェとして地域の人や通りかかった人にもどんどん利用していただきたいのですが、店内で手話のやりとりが活発にされているのを見て、「手話ができないので」「手話はわからないので」と遠慮して出て行かれる方もいて、残念に思っています。手話がわからなくても、指差しで注文ができるイラストや筆談用のメモも準備しています。口語(口の形で言葉を読み取る)での会話ができるメンバーもいますし、身振り手振りでもけっこう伝わるものです。多少の行き違いを怖れず、気軽にコミュニケーションをとってもらえたらと思います。

 

 sub_ttl00.gif   聴覚障がいのある人が直面する「困難」

 

  生活相談も受けています。若い世代の人たちはインターネットで情報を得ているのか、私たちのところへ相談に来られることは多くはありません。高齢の方からの相談では、病院や役所でのやりとりや、介護保険や公営住宅の減免などさまざまな手続きの困難さによるものが沢山あります。

 

 手話通訳派遣制度がありますが、1週間前までに申し込みが必要だったり、内容によっては派遣外だとして断られたりと、使い勝手がいいとはとても言えません。また、人によって育った環境や聴力を失った時期などで手話表現が違います。高齢者の方の中には日本手話と呼ばれる手話を使われる方がいますが、これは今の日本語を単純に当てはめて理解することはできません。現在、手話を学んでいる人たちの多くは日本語対応手話です。こちらは今の日本語に合わせてつくられています。手話通訳者は日本語対応手話の方が使いやすいので、日本手話を自由に使っておられる方の会話にはついていけません。手話通訳者の数自体も圧倒的に少ないのですが、こうしたこともほとんど知られておらず、医療や各手続きなど命や生活にかかわる場面で意思の疎通ができないことは大変な問題です。

 

  80代でデフサポートおおさかへ通所されてこられる方もいるのはうれしいのですが、いずれは地域に戻られることになります。その時、地域との関わりがまったくなければ、話し相手もおらず、家にこもりがちになってしまいます。社会福祉協議会などを中心に高齢者の見守りや支援態勢の整備が進んでいますが、聴覚障がいのある人とどうつながっていくかはまだまだ試行錯誤の段階です。高齢になった聴覚障がい者が地域といかにつながれるか、とても心配です。

 

 sub_ttl00.gif その人らしく生きるための支援を

 

 若い世代にも困難はあります。通所スタッフのなかで介護ヘルパーの資格を取得するため、ある学校に入学手続きをとった人がいました。しかし手話通訳が必要だとわかったとたん、学校側から「キャンセルしてもらってもいい」と入学辞退をほのめかされました。確かに手話通訳をつければ多くのお金がかかります。手話通訳派遣制度は医療など命や財産に関わることや公的制度の手続き等に派遣されているようです。そのような状態の中では誰が彼女に学ぶ権利を保障するのでしょうか。

 

  最終的に、デフサポートおおさかに登録しているボランティアの方にお願いし、何人かでローテーションを組んで乗り切りました。交通費など必要最低限の経費は寄付で賄いました。しかしこうしたことにも限度があります。学ぶ意思や意欲のある人、具体的な目標をもっている人に機会を保障することは、共生社会やバリアフリー社会の大前提ではないでしょうか。また、小学4、5、6年生を対象にした学習支援をおこなっていますが、これも一般的な塾では聴覚障がいのある子どもが受け入れられないという事情からです。

 

 

  制度上のバリアフリーは少しずつ前進してきましたが、その人らしく生きていくために必要な情報を手軽に得たり、文化や娯楽を楽しむことをサポートしたりする部分はまだまだ不十分です。本当の意味での豊かな共生社会をつくっていくために、これからも発信と支援を続けていきます。

 

 (2013年5月掲載)