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・・・・・ 第90回・・・・・ 

在日コリアンの子ど

も支援の原点を異文

化共生に生かす 

  特定非営利活動法人トッカビ さん

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sub_ttl00.gif 在日コリアンの子どもたちを支える場として

 

 トッカビとは、朝鮮の昔話に出てくる怪物です。とても強くて恐い反面、チョッピリおっちょこちょいで人なつっこいキャラクターで親しまれています。活動は1974年10月、八尾市安中の小さな長屋で始まりました。当時、地域に住む人のうち、在日コリアンが約1割を占めていました。また、地域の中学生たちの「非行」が大きな課題となっていましたが、その中にはコリアンの生徒たちもいました。子どもたちの「非行」の背景には、子どもたちが置かれた環境の厳しさが影響していることが少なくありません。コリアンの子どもたちの場合、在日韓国・朝鮮人の人たちに対する日本社会の厳しい差別や偏見によって尊厳が傷つけられ、将来に展望がもてなくなっていることがありました。こうしたことから初期の「トッカビ子ども会」では、遊びやスポーツを楽しみながら、学校での勉強の補習や民族教育がおこなわれ、子どもたちの育ちを支えてきました。

 

 sub_ttl00.gif 人や地域の輪を広げる取組み

 

 時代の流れや取組みの深まりともに、トッカビが生み出してきた事業は八尾市による行政事業へと発展してきました。また、1980年代以降、難民としてベトナムから来日した人や、中国、タイ、フィリピンから移住してこられた人たちが私たちの地域にも増えてきました。言葉がわからない異文化社会での生活にはさまざまな困難があります。トッカビでも相談を受けることが増え、おのずと私たちの役割も変化してきました。地域で異なる文化をもつ人々が楽しく安心して暮らしていくためには、さまざまな工夫や知恵が必要です。私たちもサポートの対象をベトナムや中国、タイ、フィリピンなどのニューカマーの子どもたちへと広げました。たとえばそれぞれの国の料理を教えてもらいながら一緒につくり、食べながら、日本での生活で困ったことや驚いたことなどを話してもらう「トッカビ交流講座」、トッカビに集まる外国人市民の人たちと地域の人やトッカビ会員の人たちとの交流の場「やおえこり」などです。「やおえこり」とは韓国・朝鮮語で「八尾の輪」という意味で、文字通りトッカビを中心に人や地域の輪を広げていこうという思いをこめました。

   

 sub_ttl00.gif 活動を地域にどうつなげていけるか

 

 2002年にNPO法人となって10年が過ぎ、私たちの活動は地域外でも知られるようになり、多くの人が訪ねてこられます。それはとてもうれしいことなのですが、一方で地域にはまだまだ課題があるのも事実です。イベントは盛り上がり、手応えを感じるのですが、日々外国人市民の方と地域住民としてともに暮らしている人の自主的な参加はそれほど多くありません。逆にいえば、ゴミの出し方や料理の匂い、騒音などの”トラブル”を経験している「日本人」の人たちに、トラブルとは違う場面で外国人市民の人たちと出会い、その思いや実情を知ってもらうためのきっかけづくりはまだまだできていないと感じています。たとえば日本語が読めない、口頭で説明されたがよく理解できなかったという理由で決められた場所や時間以外にゴミを出してしまったり、高齢化した地域社会のなかで若い家族同士が集まることで”騒がしい”と受け止められてしまうなど、”トラブル”の背景にはお互いを理解する機会がなかったが故の行き違いが多くあります。トラブルの相手ではなく、異文化をもつ人としての出会いや交流が日常的にあれば、トラブル自体が減らせるはずです。

 

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異文化を理解する場を日常のなかに

 

 もちろん私たちも行政も人権研修や講座などを開き、外国人市民と「日本人」との相互理解や尊重を進める取組みをしてきました。それはそれで今後も必要ですが、同時にもっと身近な場面で日常会話として「それは違うよ」「こういう事情があるんだよ」と伝えられる人があちこちにいればと思います。ゴミ出しトラブルを経験した人が「だからベトナムの人は」と雑談のなかで言い出した時、「それは日本語がよく理解できなかったんじゃないか。ベトナム語の看板を立てたらそういうことがなくなったところがあったよ」「それはその人自身の問題で、ベトナム人全体の問題じゃないよね」という誰かのひと言でその場の空気は大きく変わります。マニュアルや研修で身につくものではないのでなかなか難しいのですが、そうした人が増えていくことを願いながら、有名な人ではなく、地域の人たちが舞台にあがるようなイベントづくりもしています。本当の意味での「異文化共生」のためにも、「在日の生活と現実から出発した民族教育」の原点を忘れず、当事者の思いやニーズをしっかり受け止めながら活動をしていきたいと思っています。

                                                                              (2013年3月掲載)