人権を語る リレーエッセイ

 

 

 

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・・・・・ 第92回・・・・・ 

人権と児童福祉のポ

リシーをもった児童
館づくりをめざして
 
富田林市立児童館 さん

             

 

 
sub_ttl00.gif  同和問題解消と子どもたちの育ちを支えるために

 

  富田林市立児童館は、1971年12月に開設されました。児童館という施設は児童福祉法に規定される子育て・子育ち支援の拠点施設で、1963年からは国が建設費の2分の1を助成、全国的に設置が進められたものです。大阪では大阪市内を中心として、1971年から同和対策事業をかぶせる形で建設費の8割を助成していました。この児童館もそうして誕生しました。つまり同和問題の解消と、同和地区の子どもたちの育ちを支えるという目的で始まりました。

 

 2002年に特別対策の法律がなくなったあと、現在は一般対策としての児童館となっています。現在の活動は、中学生活動を除いて一般開放し、富田林市全域から子どもや保護者が様々な講座、事業、貸館事業を楽しんでいます。「乳幼児クラブ」もその一環として開催しています。季節ごとの行事やおもちゃの手作りなど親子で楽しめる遊びをしながら、他の親子と出会い、交流する場です。育児相談も受けています。

 

 午後は下校してきた小学生たちでにぎわいます。小学生を対象にした学童的事業、自由来館事業、講座事業(トランポリン、なわとび、囲碁、科学教室、親子水彩画教室、ダンス教室、えんぴつ教室等)や保護者を対象にした“子育てサロン”、保護者・乳幼児を対象にした“乳幼児クラブ”“親子で体操”“絵本の読み聞かせ”等の事業を行っています。3~4倍の競争率の講座もあり、市民から苦情を受けることもあります。  

 

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 気軽に立ち寄れる場であることが第一歩

 

 子育て支援という部分でいえば、平日の午前中ということもあり、乳幼児クラブに参加しているおかあさんたちのほとんどは専業主婦です。そこでの会話や職員との対話を通じて、母親がさまざまなプレッシャーのなかで育児を一人で担ったり、子育てや自分自身に自信をもてずにいるしんどさを感じます。そのしんどさが子どもへの虐待に向かうこともあります。このような保護者にとって居心地のいい空間として乳幼児クラブをはじめました。このクラブでは「設定した行事(保育カリキュラム)」をみんなで参加する取組みと「ワークショップ」があります。

 ワークショップは子育ての事などを話し合い方式で行い、心がほぐされ、深いところでつながった人間関係づくりをめざす母親のパワーアップ事業です(専任のファシリテーターが担当)。全国的にも先進的事業である虐待傾向の保護者支援メニュー「MY TREE ペアレントプログラム」をおこなっており、これに参加する保護者もいます。

 市の広報をみて訪ねてこられた方に「こんなところに児童館があったんですね」と言われることがよくあります。一方、よく利用されていた方が他市へ転居され、「児童館を探したんですがないんです。どうしたらいいですか」と尋ねられることもあります。児童館があまり一般的に知られていないこと、けれども利用された人にとってはとても大事な“場”になるということだということです。2005年からスタートした“次世代育成計画”において、厚生労働省は全国で4500館だった児童館を7500館に増やすという数値目標を出しました。中学校が全国で約1万校ですから、その7割ほどの数の児童館をつくるということです。しかし約10年の間に開設された児童館は約1000館にとどまっているといわれています。車で親が送り迎えをしなければならないような距離ではなく、乳幼児と一緒にぶらぶらと歩いて来れたり、子どもが学校帰りに立ち寄れたりするような身近な場所にあることが子育て・子育ち支援の第一歩だと思います。実際、子育て相談の窓口よりも日々の会話のなかで悩みが話されることが多く、子育て支援には職員との信頼関係が不可欠だと実感しています。

 大阪において児童館は大半が同和地区にしか建設されておらず、他県に比べて著しく不足しています。子育ち、子育て支援の拠点施設の確保は緊急な課題と言えます。

 

 sub_ttl00.gif   厳しい状況の家庭や子どもをどう支えるか

 

 一般開放によってさまざまな人が訪れてくれるようになったのはうれしいことですが、厳しい状況にある家庭の利用率の低さが気になっています。富田林市は2008年のデータで持ち家率が約59%で、隣の河内長野市より20ポイント低く、低所得層は大阪府内で最もボリュームが大きいのですが、生活水準としては大阪府内の平均よりも高くなっています。つまり貧富の差が激しいということです。特に公営住宅では経済的に厳しい世帯が多いのですが、児童館を利用してくれる人はそれほど多くありません。中学生を対象にした学習支援などもおこなっていますが、なかなか定着しないのが現状です。多様なプログラムを用意し、幅広い人に利用してもらうことももちろん大切ですが、厳しい状況にある家庭や子どもたちを支えるという役割も決して終わったわけではありません。

 

 sub_ttl00.gif 支援をする職員の力量が問われている

 

 また、この10年の間に発達障がいを中心に障がいをもつ子どもたちとの関わりについて学び、取り組んできました。しかしまだまだ十分ではないという反省があります。つい「やんちゃな子」「手のかかる子」という見方や対応をしてしまう場面があるのです。さまざまな“トラブル”が起きるたびに、「障がいのある子ども」という課題ではなく、支援や保育をする私たちの力量そのものが問われているのだと痛感します。

 同和地区にある児童館として、同和問題解決にしっかり取り組みつつ、同時に“貧困”や“障がい者問題”等に取り組むことも大切な課題です。財政や人材育成など施設の課題も多々ありますが、人権と児童福祉のポリシーをしっかりもった運営を今まで以上に意識していきたいと考えています。                                                                            

                                         (2013年3月掲載)