人権を語る リレーエッセイ

 

 

 

 

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   ・・・・・ 第89回・・・・・ 

相談事業でニーズを

つかみ、支え合いの 

なかで課題に取り

組む    

 

                                     北芝まちづくり協議会 さん

 
sub_ttl00.gif 啓発だけでは忌避意識を乗り越えられない

 

  箕面・北芝の取組みは被差別部落に対する忌避意識をどう克服していくかというテーマが根底にあります。長年の部落解放運動を通じて実感してきたのは、「差別は間違っている。お互いの人権を大切に」といった啓発だけでは乗り越えられない部分があるということでした。また、生活環境など地域の実態が忌避意識を生み、それがまた差別を生み出すという悪循環も痛感しています。

 たとえば現在、北芝地区の住宅のうち5割から6割が市営住宅です。同和対策事業のなかで整備され、地域の人々が住んだという経過があるわけですが、現在は一般公募になり、家賃が安い市営住宅には地域外からさまざまな課題を抱えた人が入居してきます。現在、入居者のうち、60歳以上の高齢者がいる世帯が約6割、高齢者のみの世帯が約4割、ひとり親家庭の世帯が約1割です。政府が出した貧困率で貧困層にあたる人が約6割という現状があります。一方で、「家賃が安くていいね」「優遇されている人たち」という誤解に基づいた偏見があります。その結果、課題が集中しているにも関わらず、偏見のまなざしが向けられ、市営住宅に対するマイナスイメージだけが残っていくという悪循環が生まれます。こうした構図を変えていくためには啓発だけでは限界があるのです。

 

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「つぶやき拾い」から始まった取組み

 

 そこで私たちはまず地域のニーズを知ることから始めました。2001年から2年がかりでワークショップ形式によるニーズ調査をおこなったのです。1年目は住民さんに集まってもらい、どんなことに困っているのかをとにかく出してもらいました。2年目はそれらを解決していくための手段を探りました。行政に対策を求めるのもひとつですが、今はそれがなかなか通らない時代です。まず自分たちでできることからやっていこうと話し合いました。具体的には市営住宅では「風呂場の浴槽と洗い場の段差が大きくて風呂に入りづらい」というニーズが一番多かったので、地元の大工さんの協力を得てみんなで手作りの簀(す)の子を作り、段差を解消しました。外観を良くするために周りに花を植えるプロジェクト等もおこないました。

 こうした取組みのなかで大切にしてきたのは、支援する側とされる側が固定することなく、状況に応じて支援する側にもされる側にもなること。そして地域の内外にこだわらず、幅広い組織や人とつながることです。2000年当時に重視していたのはお祭りやイベントの開催にあたっては子どもがまず参加し、子どもを通じて親や祖父母など世代を超えたつながりが生まれました。またさまざまなテーマのお祭りをすることで多様な人とつながる機会をもつことに徹底的にこだわりました。

 

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地域や組織の枠組みを超えてつながる大切さ

 

 2010年は取組みの転機の年となりました。これまで行政に要求してきたことを自分たちの手で担っていこうと決めたのです。行政でやれることの限界と地域のニーズの狭間で考えた結果でした。もともと北芝は自主的な気風のある地域です。1990年代前半から、当時の部落解放運動のリーダーたちが同和対策事業の個人給付の自主返上に取り組みました。そこには甘えや依存が自分たちの力を奪うことに対する危機感があったと思います。私たちも隣保館の運営を自分たちが担うことで改めて行政と連携した地域づくりをしていこうと考えました。

 実はこうした方向性を見越して早くから人材育成にも取り組んでいました。先ほど述べた地域内外を問わず、幅広くつながってきたのもそのひとつです。現在、NPOには約40人の職員が働いていますが、うち約6割が地域外の人です。私たちはどんな取組みにも「核」となる人が不可欠だと考えていますが、それは地域の人やNPOの職員に限らないとも考えています。例えば、隣保館の運営には小学校区でPTAや地区福祉会など様々な団体のサポートがあるように、地域や運動体の枠を超えた関係性を日常的につくってきました。

 

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子どもたちの自尊心と自立心を育む仕掛けづくり

 

 こうした風土をつくりあげてきたうえで、やはり最終的に目指すのは部落に対する忌避意識、差別の解消です。しかし忌避意識を薄めることはできても、差別を完全になくすのは難しいとも正直感じています。実際、今も結婚差別を始め差別事例は後を絶ちません。そこで子どもたちには自分や地域に誇りをもち、自分を大切にする力をもってほしいと、さまざまな”仕掛け”をつくっています。駄菓子屋やカフェを運営し、学校に居場所のない子どもが行ける場所、自分の力を発揮できる場所をつくっています。また、活動に参加することで子ども地域通貨「ま?ぶ」を貯め、子どもが主体的にさまざまな催しやプロジェクトに参加できるようにしています。その他にも小中高と段階に応じた学習支援や子どもの夢を地域ぐるみで応援するプロジェクトなど、今も多くの事業が同時進行しています。

 

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相談から事業へ コミュニティワーカーとしての役割

私たちの活動に多くの人が注目していただき、海外からも視察にこられます。事業の内容ばかりに目が向けられがちですが、私たちが事業と同時に一貫して大事にしているのは日々の相談活動です。私たちは、ケースワーカーではなくコミュニティワーカーであるべきと考えています。普段のおしゃべりや相談活動を通して拾ったニーズ、ウォンツを見極めて事業を創っていくことが重要です。相談事業がしっかり機能してこそ、事業や活動が実を結びます。今後も相談活動を通じて、時代や社会情勢とともに変化する社会課題をしっかりとらえていきたいと考えています。

                                            (2013年3月掲載)