人権を語る リレーエッセイ

 

 

 

 

 

 

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・・・・・ 第91回・・・・・ 

人と人とをつなぐ

 
仕組みで課題を乗
 
り越える

             幸・王子まちづくり協議会 さん

 

 
sub_ttl00.gif  大規模市営住宅ならではの課題と向き合う

 

 私たちの地域の住宅は大規模な市営住宅が大半を占めています。全部で10団地、1700を超える世帯数で、地域内外の交流がしにくく、また内部でもどこにどんな人が住んでいるのか、個人情報保護との関係もあり、なかなか実態がつかみにくいのが実情です。一方で高齢化率(65歳以上が人口に占める割合)が非常に高く、和泉市全体の高齢化率が19%に対し、地域で最も古い団地では約40%とほぼ倍の高さです。そのうえ経済的に厳しい、家族と離れて暮らしているなどなんらかの課題をもった人が多いため、相談や支援などさまざまな取組みをしてきました。

 

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 「第二のリビング」で交流と安否確認

 

 まず、入居者組合連合会をつくりました。1団地でひとつのブロックとし、10人の組合長さんが定期的に集まり、情報交換をしたり行政への要望書を出したりといった活動をしています。また、団地の空き店舗を利用した市営住宅安心確保事業「すこやかリビング」を運営しています。和泉市内に3カ所ある「すこやかリビング」のうち、2カ所がこの地域にあります。家に閉じこもりがちになる高齢者の方に「第二のリビング」として気軽に利用してもらおうというものですが、年齢や地域に関係なく誰でも利用できます。テレビを観ている人もいれば、家から弁当を持参して食べる人もいます。みんなで弁当を注文して一緒に食べる会食会や介護予防の勉強会などもおこなっています。もうひとつの大きな目的は安否確認です。登録をされた方をスタッフが週2、3回のペースで自宅訪問をします。運営母体が入居者組合連合会なので、安否の確認がとれない場合は役員を通じて家族や親戚と連絡をとります。

 

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 生活不安を抱える高齢者をどう支えるか

 

 さらに「シルバースペース」という居場所もあります。これも空き店舗を活用し、週3日、コーヒーとパンと卵のモーニングサービスを100円で提供しています。多い日で20人ほどの利用があり、好評です。これも一人暮らしの高齢者が多い中、朝の短い時間だけでもみんなで一緒に食事をしようという思いからです。市の補助金などはもらっておらず、地域で有志の人が積立ててきた基金を使っているので財政的には厳しく、スタッフはすべてボランティアです。なかなか厳しいのですが、できるだけ続けていきたいと考えています。お昼には週1回のカラオケ教室のほか、地域の活動グループや老人会の集まりなどにも利用されています。

 ここにも「おたずねフォン」という安否確認のシステムをつくりました。65歳以上の方を対象に、曜日と時間を指定して登録してもらうと自動的に電話がかかるようになっています。「調子はどうですか」と自動音声で尋ね、1なら「元気」、2は「心配ごとがある」、3は「相談したいことがある」で当てはまる数字を押してもらい、2や3の応答があればスタッフが電話をかけたり自宅を訪問したりします。  

 高齢者の心配ごととしては体調を想定していたのですが、実際には生活面での心配や不安が多くあります。ローンなどを抱え年金だけでは生活できないことや生活保護の受給希望、親の介護のことなど、生活面での厳しさが浮かび上がってきました。そこで「おたずねフォン」を生活相談のひとつのツールとして活用し、内容によっては行政につなぐなどしながら支援していくという方向性が出てきました。現在は80人ほどの登録ですが、今後さらに広げていけたらと思っています。

 

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 手厚いサービスは厳しい現状の裏返し

 

 同じく市営住宅を活用した事業として障がいのある人を対象にしたグループホームを現在6軒運営しています。1階の店舗部分は就労支援の活動場所となっており、住まいと活動場所が近いという便利さがあります。

 青少年センターを活用した事業としては地域のNPO法人が中心となり、中高生の居場所づくりをしています。これは大阪府の「新しい公共の場づくりのためのモデル事業」を活用させてもらっているもので、地域外の子どもたちも参加し、人権学習や地域の歴史を知る時間もつくりながら、子どもたちの出会いや交流の場となっています。

 また、地域内の共同浴場の運営の指定管理を受け、営業しています。250円と利用料を安く設定していることもあり、地域外からも多くの人が来てくれます。こちらも地域内外の交流の場として、また高齢者の居場所、安否確認の場としても活用できるので今後さらに充実していく予定です。

 こうしてご紹介していていると、とても充実した環境のように思われるでしょう。実際、外部から市営住宅に入居してこられた方たちからは「手厚い」「サービスが充実している」という声も多く聞かれます。しかしそれはそれだけの支えが必要な方が多いということの表れでもあり、ニーズは高まる一方でありながら、人的、財政的な課題も多くあるというのが実情です。

 地域内の大半を市営住宅が占めるということは、住む人の生活環境が一律になりがちです。しかしまちの活性化には多様な人が住み、多様な活動や営みがあることが欠かせません。これまでの取組みから浮かび上がった課題をどう解決しながら、まちの活性化につなげていくか。行政やNPO、場合によっては企業などと連携しながら、人と人とがつながることで活性化するまちづくりを考えていきたいと思っています。

                                                                              (2013年3月掲載)