人権を語る リレーエッセイ

 
 

 

 

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・・・・・ 第88回・・・・・ 

国としての責務と

して外国人労働者の

権利保障を

 
 

RINK(Right of Immigrants Network in Kansai)

すべての外国人労働者とその家族の人権を守る関西ネットワーク

事務局長 早崎 直美 さん

 

 
sub_ttl00.gif  支援のネットワーク化を目指して設立

 

 RINK(Right of Immigrants Network in Kansai)は、すべての外国人労働者とその家族の人権を守ることを目指して1991年に設立されました。日本で暮らす外国人、なかでも1980年代以降に来日されたニューカマーと呼ばれる人たちを中心に支援活動をおこなっています。設立のきっかけは、ある事件でした。研修生という名目でフィリピンから来日しキーパンチャーとして働いていた女性たちに対して、「研修生だから労働ではない」とされ、非常に安い賃金しか支払われなかったのです。女性たちの訴えを聞いた弁護士や労働組合が連携して会社と交渉をして解決しました。当時からこうした問題を認識していた弁護士たちの活動は始まっていたのですが、在日外国人が急増するなか、今後も同じような問題が増えていくことが予想されました。幅広いネットワークをつくって情報交換や連携をしていこうという気運が高まり、設立となりました。 

 

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 弱みにつけ込んだ給料未払いや低賃金

 

 実際に活動を始めてみると問題を抱えた人から次々と電話がかかってきました。日本語以外の言語で対応できるスタッフが複数いたこともあり、相談窓口を設置することにしました。その後、さらに口コミで広まり、現在は相談対応が活動の中心となっています。現在はスペイン語、中国語、ベトナム語、タイ語での電話相談を曜日によって受け付けています。全体で年間約2000件の相談を受けています。

 相談の内容をいくつかご紹介します。たとえば留学生のアルバイトできちんと給料が支払われないということがあります。留学生のアルバイトは、夏休みなど長期休暇以外は1日4時間週28時間以内という規定があるのですが、生活費や学費を賄うためにそれ以上働かざるを得ない人もいます。また風俗営業関係等に従事することも禁止されていますが、時給が高いのでそうした仕事を選ぶ人もいます。そうしたなかには禁止されていることを知ったうえで雇い、時給を低くしたり給料を支払わなかったりする雇用主がいます。留学生が訴えにくいという弱みにつけ込んでいるようです。

 

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 労働者として認めない政策のしわ寄せ

 

 日本人の夫とアジアから来日した妻との離婚問題も少なくありません。特に最近は夫の仕事がうまくいかなくなり、離婚問題に発展するというケースが増えているように感じています。収入が不安定になればDVなど夫婦関係にも影響が及びます。内容も複雑化する傾向があり、夫に暴力をふるわれたり、パスポートを取り上げられたりしたあげく、夫が故意に在留期間更新手続きに協力しなかったために在留資格を喪失したなどということもあります。

 日本語でのコミュニケーションが難しい人の場合、電話相談で話を聞き、アドバイスをするだけでは問題の解決が難しいことがほとんどです。そこで私たちが役所へ同行したり雇用主と交渉したりします。

  こうした深刻な人権侵害が起きているにもかかわらず、社会問題としてはほとんど認知されていません。その理由として、外国人の人々を社会にどう受け入れるかということをきちんと考えられた政策がないということが挙げられると思います。多くの外国人が労働者としてさまざまな現場で働いているにも関わらず(※)、日本は現在も公的には特別な技術をもった人(高度人材)の労働しか認めていません。一方で日本人の配偶者や日系人など日本人との何らかの関わりが認められれば来日が可能であり、製造や建築の現場で雇用もされています。  

 また、技能実習制度という問題もあります。技術を学ぶという名目で来日し、工場などで日本人より悪い条件で働かされます。

 

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 日本社会に不可欠な存在として認め、権利保障を

 

 実際には労働力として求めながら公には認めないという矛盾した政策のもとで人権侵害が起こっており、そこには外国人が日本人社会から切り離され、孤立させられているという構造があります。たとえば派遣会社が「日本語が不十分でも困らないところを斡旋します」という謳い文句で同じ出身国の人たちだけを集めた職場を紹介したりします。確かに助かる部分もあるでしょうが、日本社会とまったくつながりができないままで生活の基盤ができ、病気や失職などトラブルがあった時に困るということがあります。技能実習生に対しては、来日期間中は同じ会社で働き続けることを義務づけており、日本社会との接点がもちにくいようにされています。

 こうした構造の背景には、国の責任をあいまいにしておきたいという意図と、外国人の労働を全面的に解禁すれば日本人の仕事が失われるのではないかという不安があるのではないかと思います。しかし少子高齢化が進む日本社会において、今後も外国人の力は欠かせません。外国から来た人たちが働きやすく、住みやすい国にするための政策をつくり、環境を整えられた時、今はまるでいないかのような存在にされている在日外国人の姿が隣人として見えるはずです。外国人の人権を守ることは自分たちの人権を守ることにも通じます。私たちは今後もしっかりと支援活動ができるよう、相談を受けられる人や通訳ができる人などの人材育成やネットワークの拡大に取り組んでいます。  

※「外国人雇用状況の届出状況(平成23年10月末現在)」(厚生労働省)によると、外国人労働者を雇用している事業所数は116,561か所。
外国人労働者数は686,246人。産業別にみると、外国人労働者を雇用する事業所、外国人労働者ともに、製造業が最も多く、全体に占める割合はそれぞれ29.8%、38.7%。

                                                                              (2013年2月掲載)