人権を語る リレーエッセイ

 
 

 

 

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・・・・・ 第87回・・・・・ 

生活に必要な情報

 
つながりを提供する
 

センターとして

 

QWRC

(くぉーく/Queer and Women's Resource Center)

桂木 祥子 さん

 

 
sub_ttl00.gif  情報も人も集まりやすい「場」として

 

QWRC(くぉーく/Queer and Women's Resource Centerの略)はLGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー)等、多様な性を生きる人々と女性にさまざまな資料や情報を提供するリソースセンターです。2003年、それぞれに活動していた仲間たちの間から「安心して集まれる場がほしい」という声が上がり、お金を出し合って設立した民間団体です。当時、こうしたいわゆるセクシュアルマイノリティの団体はありましたが、「場」をもっているところはほとんどなく、「場」があれば、情報も人も集まりやすいのではという思いもありました。

活動をしながら、必要と思われる事業を立ち上げてきました。現在は、電話相談、講師派遣、人権講座の主催、ニュースレターの発行が中心です。また、「QWRCデー」「QWRCナイト」として、LGBTに理解のある人なら誰でも参加できる時間をもうけています。お茶やお菓子でくつろぎながら、自由に語り合う場です。幅広い年代の方が参加されており、たとえば高校の先生がLGBTの生徒さんと一緒に来られたりもします。

 

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 途切れることのない電話相談

 

電話相談は2005年にスタートしました。毎月第1月曜日の19時半から22時半までの間に受けています。LGBTの当事者だけでなく、家族や友人からの相談もあります。当初、すでにインターネットが広まっていたこともあり、電話相談の需要は少ないのではと考えていました。しかし、スタートしてみると多くの方がかけてこられました。当初は「家族や友人にどうカミングアウト(自分のセクシュアリティについて話すこと)すればいいか」という内容が多かったのですが、徐々にDVや性同一性障害に関する相談も増えてきました。最近は常に回線がふさがっている状態です。

LGBTのコミュニティはまだまだ限られており、狭い世界で人間関係がこじれたり、恋人間でDVが起こったりすると、非常につらい状況になることがあります。そうしたしんどさ、生きづらさを受け止める場や情報提供が必要だと感じています。

また、インターネットの活用も定着はしていますが、ネットでのコミュニケーションが苦手な人や、オフ会など交流の場に出て行けない人もいます。そうした人たちのためにも電話相談の意義があることがわかりました。

 

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 さまざまな切り口でプロジェクトを展開

 

また、23歳以下の方を対象とした「カラフル」というおしゃべり会や英会話教室「QWEEN」もおこなっています。英会話講座は設立当初から開いていますが、「なぜ英会話なんですか?」とよく訊かれます。一般の英会話教室では会話の練習として日常の生活を話す機会が多くありますが、LGBTの人にとっては話しにくい内容もあります。男性名詞と女性名詞がはっきりしていて、性別が特定されることが多いのも苦痛に感じる人がいます。そうしたことを気にせず学べる英会話をということから始まりました。 『LGBTと医療・福祉』『LGBT便利帳』という冊子も出しています。『医療・福祉』は、LGBTの解説や医療・福祉の現状、対応の仕方やメンタルヘルスの重要性などを医療・福祉関係者に伝えるとともに、当事者も含めて医療・福祉のあり方を考えるネットワークをつくることを目的として編集しました。『便利帳』は医療機関にかかる時に自分のセクシュアリティや状況をスムーズに伝えるためのチェックリストや、依存症やDVなどについての情報などをまとめました。どちらもQWRCのホームページからダウンロードできます。

これらの取り組みと関連して、緊急連絡先カードも制作しました。怪我や急病などで意識を失った時、連絡をとってほしい人の名前や連絡先をあらかじめ記入し携帯しておくものです。同性パートナーに限らず、大切な友人などを書いておくこともできます。このカードはとても反響があり、2006年の発行以来、増刷を繰り返しています。

 

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 セクシュアリティは「特殊」ではなく「多様」なもの

 

最近、LGBTという言葉をよく見聞きするようになり、セクシュアルマイノリティに対する認識が広まっているのを感じます。けれども私たちは「特殊な人たち」として扱われることは望んでいません。異性愛者で自分の性別に違和感のない人たちが多数を占めている社会のなかで不自由は強く感じていますが、私たちは決して特殊な存在ではないのです。QWRCで「セクシュアルマイノリティ」という表現をあまり使わないのもそのためです。ただ、LGBTという言葉に当てはまらない人、違和感のある人もいるので、この表現がベストだとも言えません。つまり、それほどセクシュアリティは多様だということです。
 
多くの不自由のなかで、LGBTの人たちはさまざまな工夫をして生き抜いています。孤立したり悩んだりしている人には、ぜひどこかにつながってほしいと思います。必ず仲間と出会えます。そして教員や医療・福祉の専門家という立場の方には、まずは本人の話をきちんと聞いていただきたいと思っています。 

                                                                             (2013年1月掲載)