新着情報

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・・・・・ 第86回・・・・・

すべての人々の

人権尊重を

土台に据えて

HIV問題に取り組む

特定非営利活動法人

HIVと人権・情報センターさん

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sub_ttl00.gif 激しい差別のなかで始まった支援活動

HIVと人権・情報センターは、エイズによる偏見や差別に苦しんでいる人を直接支援するため、1988年に発足した民間ボランティア団体です。1980年代当時の日本では、治療法も確立されておらず、「死に至る病」として恐怖や不安を煽りながら、ゲイや外国人がかかる病気、また女性から感染するというイメージを植え付けるような報道が繰り返されていました。医療機関も検査すら怖くてできないという状況で、陽性告知をされた方は病院をたらい回しされることが珍しくありませんでした。感染した人はプライバシーを暴かれ、ひどい人権侵害を受けましたが、「1人の人権より99人の命のほうが大事だ」という論調が広く受け入れられていました。そうした中で「情報よりも人権を大切に」という思いをこめて、「HIVと人権・情報センター」と名付けました。HIVに感染した人やAIDSを発症した人、そして感染の不安をもつ人たちを、HIVの感染経路やセクシュアリティ、国籍などの違いによって区別することなく支援しています。
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10代のこどもたちの自己肯定感を高める

HIV/AIDS啓発活動

 活動は主に「電話相談」「当事者支援」「検査事業」そして「啓発事業」の4つの柱があります。1998年からは若者相互によるHIV/AIDS啓発プログラム(Young for Young Sharing Program)「YYSP(ワイワイえすぴぃ)」にも力を入れてきました。若い世代のボランティアと教育関係者が中心となって作ったものです。電話相談をするなかで、10代の子どもたちの自己肯定感がとても低いことがわかってきました。「自分なんかどうでもいいんだ」「自分は必要とされていない」と思い込んでいたり、身近に信頼できる大人がいないなかで育ってきた子どもたちが、たとえばセックスという形で自分が求められた時に喜びや心地よさを感じるのはわかりやすく、無理もないことです。それを頭ごなしに否定するのではなく、「それはあなたの選択だけど、セックスのまわりにはこんなことがあるよ。それはクリアできている?」といった伝え方をしています。これまで多くの中学高校、専門学校、大学、地域のグループに出向いてきました。

また、中高生に伝わりやすいよう、マンガ冊子『すとーりぁ SEX』も作成しました。交際相手に携帯メールを無理やり見られた、したくないのにSEXを求められたといった具体的なケースをもとに、愛や性、生きるということについて考えられる内容です。

人は自分を大事に思うことができてこそ、他人を大事に思う気持ちも生まれます。そしていろいろなことができる自分に気付くことで、相手に自分の思いを伝えられるようになります。自己肯定感はセックスする・しないを自分で選択する、感染を予防するためにコンドームを使うなどの行動につながっていきます。HIVの感染予防にとっても重要なポイントなのです。

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検査前後のカウンセリングが重要な理由

 検査で大切にしているのは、前後のカウンセリングです。職場や家族、パートナーから強制的に、あるいは人間ドックなどで項目のひとつとして検査を受けるのと、カウンセリングをきちんと受けたうえで検査する・しないを自分で選択するのとでは結果の受け止め方がまったく違います。たとえば結果が陽性であっても、自発的に検査を受けた人はスムーズに治療に向かう気持ちになります。陰性の場合も今後も主体的に予防していこうという気持ちをもてます。けれども強制的に検査を受け、ポンと結果だけを知らされると、これからの人生を病気と共生しながらどう生きていこうかと前向きに考える気持ちにはなかなかなれません。そして陰性であれば「ラッキー!」で終わり、主体的な予防にはつながりません。私たちは結果に関わらず、検査結果をお知らせする時には1人ひとりにその人が必要なだけの時間をかけてお話をします。陽性の方には今後の具体的なサポートについて、陰性の方には今後も予防していくために何が大切なのかを伝えます。検査前後はエイズを自分のこととして考えられる大きなきっかけでもあります。その機会にしっかりと正しい知識を身につけてほしいと願いながら、ていねいなカウンセリングを心がけています。

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感染症が増加する背景にあるもの

現在、エイズは治療により、寿命まで生きることが可能となってきました。それはよいことなのですが、一方で日本における感染者が増加傾向にあるのが課題です。メディアや人々の関心が低下し、検査を受ける人が減ったなどといわれていますが、私たちは感染者が増加する根底にはさまざまな人の人権が守られていない社会の現状があるととらえています。女性や子ども、セクシュアル・マイノリティ、薬物使用者、外国人など多様な人の人権が軽視され、健康が守られるところから遠ざかっていることの表れだということです。

エイズのことを伝えようとする時、セックスやコンドームのことに焦点が当てられがちですが、私たちが伝えたいのは予防についてだけではありません。多様な人々の人権が守られること、そして自分らしさや自分の命を大切にすることを伝え、ともに考えていく姿勢を大切にしていきたいと考えています。

   (2012年12月掲載)