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・・・・・ 第85回・・・・・ 

「安心・自信・自由」を
子どもたちに伝えながら

大人として考えていきたいこと

  特定非営利活動法人

   暴力防止情報スペース・APIS

   (アピス)さん  

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sub_ttl00.gif  あらゆる暴力をなくしたい

 

 私たちの活動はCAP(子どもへの暴力防止プログラム)から始まりました。1995年に日本で始めてCAPのプログラムを実践する「CAPスペシャリスト」の養成講座がおこなわれ、受講したメンバーたちが活動を始めるにあたって集まったのがきっかけです。
 CAPプログラムの実践をおこなうなかで、CAP以外の活動や拠点の必要性を感じ、2000年に「暴力防止情報スペースAPIS」を設立しました。 2006年にNPO法人格を取得し、現在はCAPプログラム、講師派遣、プログラム開発、相談事業などを中心に活動しています。社会における子どもや女性などへのあらゆる暴力をなくすというのが私たちの目的です。それにはまず暴力を人権侵害ととらえ、社会のなかで弱者の立場におかれてきた人たちの人権を擁護することが必要だと、さまざまな団体と連携しながら活動を続けてきました。
 
 sub_ttl00.gif  変わったのは子どもではなく、大人の状況や事情

 

  活動開始から16年、「子どもは変わりましたか?」という質問を受けることがあります。私たちは「子どもは変わらない。変わってきたのは大人の側の状況や事情である」ととらえています。たとえば私たちが活動を始めた後である、2000年に児童虐待防止法が制定され、2004年に改正されました。そして子どもに関わる仕事をしている人は虐待の早期発見に努めることや、虐待が疑われるような子どもに出会った人は福祉事務所や児童相談所に通告する義務があるとされました。私たちの活動もそうした義務があることや、そのためのスキルを身につけなければならない自覚を強くもつようになりました。 

  また、非正規雇用の増加、経済状況の悪化など社会的要因の影響によって暴力が増加しているのではないか、あるいはひとり親家庭が暴力や虐待を生むひとつの要因ではないかといった”分析”もあります。けれども非正規雇用やシングルマザーだから暴力を振るうのではありません。社会的弱者の位置に置かれた人が身につけてきた考え方——たとえば「体罰はしつけであり、暴力ではない」など——が問題なのです。リスクがあってもサポートがあれば暴力は生まれません。しかし社会的にサポートがしにくくなってきていることは確かだと感じています。
 
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「人権」をなかなか理解できない大人たち

 

  大人の対応が非常に未成熟なのも気になります。たとえば学校でのいじめが原因で子どもが亡くなると、「いじめた子どもを転校させろ」というような発言をする人がいます。しかし気に入らないものを排除するという発想では何の解決にもなりません。物理的に移動させただけでは、加害者は移動先でまた加害をする可能性もあり、むしろ状況を悪化させます。

 CAPには大人向けのワークショップもあります。しかし子どもに比べ、大人に「人権」を理解してもらうのにとても苦労してきました。たとえば子どもにCAPの3つの柱「安心」「自信」そして「自由」を教えましょうと話すと、「子どもに自由なんて教えたら、”子どもがわがままになってしまう”と心配する人がいます。自由とは”自分の人生の主人公は自分である”ということですが、それを正しく伝えられる大人はあまりいません。

 一方で、今、子育てほど手のかかるものはないという状況でもあります。大人が子どもに失敗をさせないよう、先回りして石ころを拾って歩くようなことをしています。「思い切りぶつかったらいいんだよ」「失敗してもいいんだよ」というメッセージがなく、子どもたちは強いプレッシャーのなかで育っています。 

 

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「聴ける大人」になるために

 

 集団主義の東洋では、本当の意味での個人主義が根付いていません。「自分さえよければいい」という利己主義ではなく、「自分は自分、相手は相手。踏み越えてはいけない境界線がある」ということをきちんと理解することが大切です。よく「人間として同じだから」といいますが、自分を基準にして他人のことを考えると、どうしてもズレが生じます。
 私たち大人は、さまざまな場所で「聴ける大人」になる必要性があります。自分のなかに思い込みや偏見があると、話そうとしている人を傷つけてしまいます。「聴ける大人」になるために自分のなかの思い込みや偏見に気付き、それを手放す。そのために必要なことを考え、話し合うなかでさまざまなプログラムが生まれてきました。さまざまな背景をもっている人が自らのことを話す「生きている図書館」というプログラムもそのひとつです。
 いろいろご紹介してきましたが、私たちがやっているのは、安心して話せる場所をまずメンバーのなかで保障すること。そしてそれを外に広げていくことです。そのために組織の運営も上下関係をつくらず、みんなで責任と権限を共有しています。多くの組織は、新しく入ってきた人に対して組織のルールに合わせることを求めますが、私たちは誰かが入ってきたらみんなが少しずつ変わります。組織のルールが変わることもあります。自分たちが発信しているメッセージに添ったありようでいることをこれからも大切にしながらやっていきたいと考えています。

                                                                             (2012年10月掲載)