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  ・・・・・ 第76回 ・・・・・

  

子どもに寄り添い

 

ながら、養護のあ

 

り方を模索する


藤川 澄代(ふじかわ・すみよ)さん 

社会福祉法人大阪児童福祉事業協会

アフターケア事業部


 

sub_ttl00.gif さまざまな形で施設を出た子とつながる

 

 

児童養護施設で暮らす子どもたちの多くは、中学や高校を卒業して就職が決まれば施設を出て自立をします。しかし、経済的にも精神的にもよりどころとなる「家庭」のある子が少ないため、それに代わる支援が必要です。アフターケア事業部では、本人の了解を得たうえで、年に3回発行する通信の送付や暑中見舞い、年賀状、クリスマスプレゼントのカレンダーなど年6回、つまり2ヶ月に1回はなんらかの形で「元気にしていますか?」というメッセージを送っています。また、事務所が開いている平日の10時から17時はいつでも来所していただけます。相談はもちろん、ふらりと立ち寄ってくれるのも大歓迎。常にお茶とお菓子を用意して待っています(相談に応じている時もあるので、事前にお電話を頂くと助かります)。また、週末や夜間も事前に連絡があれば、事務所を開けます。

雇用主さんとの連携も大切にしています。入社が決まればあいさつにうかがい、何か問題が起きた時にはすぐに顔を出します。法的な責任を負うことはできませんが、社会福祉法人とつながっているということで雇用主さんに安心感をもっていただきたいからです。

また、児童相談所と施設はつながっていましたが、そこと雇用主はつながっていない所もあることに気づいたんです。就労支援には、雇用主のニーズもふまえた取り組みが大事だという思いから「雇用主様感謝懇談会」という場も設け、雇用主さんからご意見や現状などを聞かせていただいています。この取り組みを通じて、単なる雇い主ではなく職場の親となっていただき、つまり職親として子どもたちを見守るおとなが一人でも増えるよう努めてきました。

 

sub_ttl00.gif 自立生活に必要な情報や技術を提供
児童養護施設で暮らす子どもたちは衣食住が一定保障され、生活環境は安定しています。一方、集団生活のなかではなかなか経験できないことがあります。たとえば、一人分の食事の作り方や買い物の仕方、印鑑の扱い方、冠婚葬祭のマナーなど、家庭生活ではごく自然に親のやり方を見て覚えていくようなことを経験できないまま、10代で社会人として自立しなければならない子が多くいます。そこで、「職場の人が亡くなったが香典袋がどんなものかわからない」「生理用品がどこに売っているのかわからない」といった問題が、日常生活のあちこちで出てきます。施設に問い合わせるのも気を遣い、職場の人に聞くのも遠慮して、住まいから出られなくなってしまって職場にも行けず、結果として解雇されたというケースもあります。

こうした事例に遭遇するうち、一人で生活するために必要な情報や技術をあらかじめ学ぶ場が必要だと考え始め、11年前から「ソーシャル・スキル・トレーニング(SST)」というプログラムを始めました。毎年7月から8ヶ月間、10回にわたってビジネスマナーや職業カウンセリング、食生活やお金のやりくり、身近な法律知識などを学びます。当初は翌年に施設を退所予定の就職予定者を対象にしていましたが、「もっと早くから学びたい」「1年限りでは休まざるを得なかった回のプログラムが学べない」という声が多く、施設で暮らす子どもであれば中学3年生以降は誰でも参加できるようにしました。
 
sub_ttl00.gif 社会の変化がおよぼす影響

このプログラムは月に一度、土曜の午前中を中心に開催し、参加者と講師とスタッフが一緒に昼食を食べた後に解散とします。一緒に食事をとりながら雑談をするうちに信頼関係が築かれ、「何かあればここにきて相談しよう」と思ってくれたらいいな!と始めましたが、その影響か、SSTを始めてから相談件数は大幅に増えました。

SSTをスタートして11年が経ちましたが、子どもからの相談内容はさほど変わりません。最も多い相談は「人間関係の悩み」で、そのために仕事が続かなくなる子が多く、寮付きの職場に就職すると、辞めればたちまち住む場所もなくなります。ホームレス状態にならないよう、できるだけ仕事が続けられること、やむを得ず辞める場合は辞める前に次の仕事を見つけることが重要です。

しかし実際は以前に比べて仕事は「辞めやすく」なっています。20年前位には24時間営業のコンビニもネットカフェも漫画喫茶もほとんどありませんでした。夜、出かけていく場所がなかったのです。しかし今はお金がなくても、一晩過ごせる場所がたくさんあります。つまり、子どもたちの悩みは変わらないが、社会環境の変化に伴って仕事を辞めやすくなったといえます。また、仕事を辞めて居場所を失った子が、同じ施設経験者の子が暮らしている寮に転がり込むケースもあります。そのまま居着いてしまうと、働いている子も意欲をなくしがちなので、早い段階でのサポートが必要です。

 

sub_ttl00.gif 各地で始まったアフターケアの取り組み
現時点で、施設入所者への講義(SST)も含めアフターケアだけを専門におこなっているのは全国的にも私たちだけですが、SSTや雇用主さんとの懇談会など私たちの取り組みをモデルとした事業が各地で始まっています。

大阪府内では毎年、中卒あるいは高卒で就職が決まり、施設を退所する子が約150人位います。この10年間で約1500人にのぼります。自立するということは、一人で暮らすことではありません。社会とつながり、「いいおとな いい親」になってきちんと納税できる社会人になってほしいと思っています。SSTを受けた子どもが、困っている子に当事業部を紹介して相談に来てくれることもあります。できれば24時間体制でいつでも相談にのりたいと考えています。そのためにスタッフの増員も必要ですし、課題は多くあります。財政的にも厳しい現状ですが、仕事や社会をめぐる環境が子どもたちにとってより厳しくなっている今、アフターケアの重要性が広く認識されることを願っています。
 
(2011年8月掲載)