人権を語る リレーエッセイ

仲村 実(なかむら みのる)さん 第53回
ダブルワークで支える父子家庭の生活に、何らかの公的支援を


仲村 実(なかむら みのる)さん

管理職ユニオン・関西 副委員長

ひとりだけで仕事と家事・育児を担うひとり親家庭には、さまざまな困難が伴います。管理職ユニオン・関西には、さまざまな労働問題が寄せられますが、そのなかには厳しい生活状況にある父子家庭の父親の声もあります。今回はその相談事例を紹介します。(相談者ご本人の了解済み)。

<相談事例>

予想外の離婚で、たちまち苦しくなった生活

同居している両親と妻の折り合いが悪く、間に入った自分がうまく調整できなかったこともあって協議離婚しました。3人の子どもたちは高校生や中学生で、最も学費のかかる時期。妻への慰謝料の支払いもあり、たちまち経済的に困窮しました。
離婚を決めた時は、ここまで追い詰められるとは思ってもいませんでした。とにかくお金が必要だったため、退職金をめあてに勤めていた会社を辞めた時も、営業職のキャリアはよそでも十分活かせると思っていました。ところが40代後半の自分が再就職するのは想像以上に厳しかったのです。退職金はみるみるうちになくなっていくのに、仕事が見つからない。家族5人の生活費をどう手当していこうか・・・。気持ちは焦るばかりでした。どんどん自信をなくし、自分には生活能力がないのだと悩みました。
どうにか営業の仕事を見つけましたが、正社員ではなく、1ヶ月ごとに更新するという契約社員でした。なんとも不安定ですが、せっぱ詰まっており、選択の余地はありません。1年7ヶ月勤めた後に失業。失業手当を4ヶ月受けた後、派遣会社の紹介で夜勤の弁当製造の仕事に就きました。

ダブルワークで体重が20kg減る

派遣の仕事だけでは収入が足りないため、ホテルのベッドメイクの仕事をかけもちすることにしました。午前中はホテルへ、お昼過ぎにいったん帰宅して睡眠をとります。夕食の段取りなどをして、夕方から夜勤に出ます。
ダブルワークというのは体力的にとても厳しいものです。体重が20kgも減り、このままでは体をこわしてしまうと思い、ベッドメイクの仕事は辞めました。当然、すぐにまた経済的に苦しくなりました。
母子家庭も大変だと思います。比べることはできませんが、離婚するまで家事や育児のほとんどを妻に任せていた男性は、家事も含めてなかなか生活をうまく回すことができません。会社でも、父子家庭に対する理解などまったくなく、相談できる空気ではありません。肉体的にも精神的にもきついと感じています。

自分が倒れたら、という不安を抱えながら

しかし、人や役所などに相談したことはありません。個人的なことなので公的支援を受けられるとは考えたこともありませんでした。就労や経済的なことに対する支援があれば助かるのですが・・・。特に進学を希望する子どもたちへの補助があれば非常に助かります。
長女はこの春、短大を卒業して就職しました。けれど高校3年生の次女と高校1年生の長男がいます。私としては高校を出たら働いてほしいのですが、二人とも進学を希望しています。奨学金を受けることも検討しましたが、条件が合わないということであきらめました。頭を下げて「進学させてほしい」と言う子どもに、力づくであきらめさせることはできません。最近、ダブルワークを再開しました。
とにかく収入を確保しなければならないので、安い時給でも働くしかありません。体が動くうちはいいのですが、私が倒れたらどうなるのか。毎日、大きな不安を抱えながら働いています。