人権を語る リレーエッセイ

植田あゆみ(うえだ あゆみ)さん 第52回
「母子家庭に育った子どもの気持ち」から見えること


植田 あゆみ(うえだ・あゆみ)さん

しんぐるまざぁず・ふぉーらむ関西SKYパレット

置き去りにされてきた、子どもの気持ち

ひとり親家庭の数は年々増えていますが、ひとり親家庭の子どもの気持ちに目が向けられることはほとんどありません。そのことに気づいたのは、両親の離婚によって、私自身が当事者になってからでした。
両親が離婚したのは、私が中学3年の時です。最初に母から聞かされた時にはショックを受けましたが、少し前から兆候のようなものがあったので、「やっぱり」という気持ちもありました。「自分の家にもこういうことが起こるんだ」とも思いました。
気持ちが落ち着いた頃、両親が離婚したことを友だちに話しました。すると友だちがとても驚いてしまったのです。「悪いことを聞いてしまった」というような表情を見て、逆に申し訳ないような気持ちになり、「これからは聞かれない限り黙っていよう」と思いました。

母子家庭の子ども6人にインタビューする

大学2年の時に「しんぐるまざあず・ふぉーらむ関西」が主催する講座で、母子家庭の子どもとして話をする機会がありました。それをきっかけに講座などのお手伝いをするようになったのです。年齢が近いスタッフと、母子家庭であることについての周囲の反応や言われて嫌だったことなどについて話し合っているうちに、「同じ思いをしたことのある子が他にもいるかもしれない。もっといろいろな子に話を聞いてみたい」と思いました。最初は興味本位だったのですが、「母子家庭の子どもの声を拾い上げたものはないから、形に残るものを作ったら?」というスタッフのアドバイスを受け、助成金を受けて冊子を作ることになりました。
つてをたどって話してくれる子を探し、中学1年から高校3年までの男女6人にインタビューすることができました。5人が離婚、1人が非婚の母子家庭で育った子どもです。「親から離婚を告げられた時、どんな状況でどう感じた?」「誰と暮らすことになった? そうなったきっかけは?」「同居親の再婚についてどう思う?」など、かなり具体的で突っ込んだ質問をしました。ほとんどが初対面の子でしたが、私たちから先に自分の経験や思いを話したのもよかったのか、率直に本音を話してくれました。

母子家庭に育ったことを悲観している子はいなかった

母子家庭になった事情はそれぞれ違いますが、同じ質問をするなかで共通点も見えてきました。「周囲の大人や友だちの反応でやめてほしいことは?」という質問には、「同情されること」「母子家庭であることを知らない子に、そういう話には触れないように言ってるみたい。そういうことはあんまりしてほしくない」など、憐れみや気遣いのまなざしに傷ついていました。そして、さりげなく受け止めてくれたり、話を聞いてくれたりするだけでうれしいという声が複数ありました。
母子家庭の子どもにとっては、その環境が「当たり前」であり、ことさら同情や気遣いをされるいわれはありません。自分の環境を悲観している子もいませんでした。私もまた、母子家庭で育ったことを誇りに思っています。母子家庭であるがゆえの経験もできたし、そのことで親とのつながりも深まったと感じているからです。
父親に関しては、離婚の時からずっと「嫌い」だと思ってきたし、父も母のことを嫌い、私や弟のことをあまり考えることもないのだろうと思っていました。けれど昨年、祖父が亡くなった時、初めて私は自分の内面を父に話し、父も自分の気持ちを率直に話してくれたのです。その時、父が母を嫌っているのではなく、私たち子どものこともきちんと考えてくれていることを知りました。父も母もずっと憎しみ合って生きているわけではないこともわかり、心の底から「ああ、これでいいんだ」と思ったのです。

子ども自身が生き方を考えられるサポートを

私がそう思えたのは、それまでに年に数回は父と会い、「つながり」があったというのも大きいと思います。長い間会っていなければ、本音を話し合うことは難しかったでしょう。だから、ひとり親家庭の子どもが別居している親に会いたいという気持ちになった時は、できるだけ会えるようにしてほしいのです。両親だけで調整するのが難しい場合は、サポートしてくれるシステムがあればいいなと思います。
インタビューを通じて、母子家庭の母親が精神的にも経済的にもきつい状況にあるのも実感しました。「しっかり育てなければ」と思いつめてしまうのか、中高生になった子どもの行動を必要以上に制限しているように感じることもありました。経済的な面では、就労支援と盛んに言われていますが、NPOの活動を通じて見ていると、体調やさまざまな事情でフルタイムで働ける人だけではないのがわかります。“狭間”にいる人が置き去りにされないような支援のあり方を考えてほしいと思います。また、養育費がきっちり払われるような仕組みも必要ではないでしょうか。離れて暮らしていても父親としての責任を果たしてほしいと思います。
母子家庭(ひとり親家庭)の子どもは、親や周囲が思っている以上に、周りをよく見ているし、さまざまなことを感じたり考えたりしています。親がいつまでもかばったり、周囲が同情や憐れみのまなざしを向けたりするのではなく、子どもがしっかりと自分の生き方を考えられるようなサポートや仕組みを考えることが大切だと考えています。
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http://smf-kansai.main.jp/