人権を語る リレーエッセイ

植田 香代子(うえだ・かよこ)さん 第51回
ひとり親家庭のライフプランに合った支援制度への見直しを


植田 香代子(うえだ・かよこ)さん

うえだライフマネジメントオフィス 代表

離婚までの過程にも「格差」が

厚生労働省の「2006年度全国母子世帯等調査結果」によると、母子家庭の平均年間就労収入は171万円となっています。一般家庭における平均年収の3割強という低さもさることながら、結婚していた時期に仕事をしておらず、離婚と同時に経済的な自立を目指さなければならない人が多くいます。特に配偶者にある程度の経済力がある場合は大きなギャップがあります。
ファイナンシャルプランナーとしてシングルマザーの女性たちから相談を受けていると、離婚する過程においても「格差」があるのをひしひしと感じます。NPO活動(しんぐるまざあず・ふぉーらむ関西)を通じて受ける相談では、配偶者が多重債務に陥ったり、暴力をふるわれたりして離別するケースが少なくありません。一方、相談料が払え、養育費などの取り決めがちゃんとでき、書類を作るための費用を出せる人たちもいます。当面は働かなくても生活できるという人もいます。一刻も早く配偶者と離れることを最優先しなければならない人と、しっかり態勢を整えながら離婚できる人とでは、もちろんその後の生活にも大きく差が出ます。そして多くのシングルマザーは慰謝料も養育費も受け取れないまま、ひとり親家庭を支えています。

ライフプランを立て、将来に向けて準備する

シングルマザーにとって最大の不安は子どもの教育費です。子どもが小さければ小さいほど、「これから大変だ」ということはわかっている。けれどもどれほど大変なのかが実感できないというのが実情のようです。私はファイナンシャルプランナーとして、ライフプランを作成することを勧めています。大学を卒業するまで、1年ごとの予定を立て、いくら必要なのかを書き込んでいきます。中学や高校、大学に入学する時にどれくらいのお金が必要なのか、公立と私立とではいくら違ってくるのか・・・。こうして具体的に数字を書き出してみると、「今の状態ではとても無理」と落ち込む人もいます。
何もかも自分の力だけで稼ぎ出しなさいということではないのです。ライフプランの考え方とは、「いついくら必要なのかを把握し、自分でできる努力をし、無駄を削り、お金を上手に運用して増やしていきましょう」というものです。とはいえ、多くの母子家庭にとってはお金の運用は縁遠く、目先のことで精一杯ですので、準備できない部分は消費者金融など簡単に借りられるものに手を出さず、母子寡婦福祉資金や学生支援機構など金利の低いものや奨学金を使えばいいのです。ただし、保証人を頼める人を心づもりしておくなどの準備が必要ですし、特に進学については子どもの意志をきちんと確認し、通学定期代などは子どもがアルバイトでまかなうなど、子どもにも自覚や努力を求めることが大切ですよとアドバイスしています。「制度を利用するために必要な手続きや準備がある」ということを伝えていきたいと思います。

具体的な「がんばりがい」のある就労支援を

国は母子家庭の就労支援制度として、自立支援教育給付金や高等技能訓練促進費など、資格取得のサポートをメインにしています。けれども前者は受講料の2割しか給付されませんし、後者は長期間就学しなければならないのに、その3分の1期間しか支給されません。しかも修了後でなければお金が出ないなど、非常に使い勝手の悪いものです。せめて給付金は入学時に、また、行政機関に就職した場合は返還の義務をなくすなど「がんばりがい」のある規定が欲しいところです。
資格取得を促すことが本当に就労支援になっているのかという疑問もあります。働きながら学校へ通い、がんばって資格を取っても年収300万円を保障する仕事に確実に就けるかというと決してそうではありません。就労支援というのであれば、行政で一定の働き口を用意するなどの受け皿が必要なのではないでしょうか。
現実問題として、正社員として採用されるのが難しい時代でもあります。一方で、経済的な安定を図ろうと思えば、どうしても時間を切り売りすることになるので、子どもといる時間や自分の余裕などがなくなります。子どもが小さいうちは一緒にいる時間を大切にしたいと思う気持ちは当然なのに、1日8時間働いたうえで残業も当たり前という日本では、1日5時間しか働けないシングルマザーは年収100万から150万円のパートに甘んじるほかありません。ワークシェアリングや同一労働同一賃金の発想があれば、1日8時間働ける人が年収500万ならば5時間なら8分の5で300万円はもらえるはずです。せめて子どもが小さいうちはそんな形で子育てと仕事を両立できる仕組みがあれば、シングルマザーの生活にゆとりが生まれるのに、と非常に残念です。

資格や思いを周囲に伝えていくことで道が開ける

私自身は離婚を考え始めた頃にファイナンシャルプランナーの資格を取ろうと思いました。当時勤めていた会社に定年までいるのではなく、資格を取って専門職としてやっていきたいと考えたからです。けれども資格を取っても「実務経験がなければ採用しない」と何社にも断られました。保険会社の営業など“回り道”をしながら、勉強会や講演会に積極的に参加し、「資格をもっています」「仕事をしたいんです」と出会った人たちにアピールし続けました。やがて「こんな仕事があるんだけど、やってみる?」と声をかけてくれる人が現れ、ひとつクリアするとまた誰かから声がかかり・・・と、少しずつ道が開けてきたのです。ですから「どうやったら資格を生かせますか?」と質問された時には、「すぐには生かせなくても、勉強を続けて、周りの人たちにアピールし続ければ生かせる時が来る。資格は大事にもっているのではなく、もっていることを知らせていくことが大事」と答えています。
経済的な面はもちろん、精神的にも物理的にもしんどい部分はありますが、同じ立場の人と情報や思いを共有したり、支えあったりしながら、お互いに自分らしく生きていけたらと願いながら活動しています。