人権トピックス

読売新聞大阪府内版掲載【2007年3月28日(水)朝刊】
いじめを考える
スーパーセッちゃんあらわる?!
~いじめはどんな状況から生まれるのでしょうか~
(その1)

コマ1 「心」を考える
いじめは、楽しいからやめらない

いじめは、楽しいのです。簡単に自分の力を確かめ、快感を得られる、便利な"装置"のようなものです。いじめは、相手にレッテルを貼り、そこから抜け出すことを許しません。そして自分たちとは「違うこと」を理由に攻撃します。国籍や出自、障害、性格などの違いを否定し、侮蔑します。いじめは、自分より弱い、あるいは抵抗できない者に対して行われます。そしてより弱い者へと連鎖していきます。おとなは、子どものいじめに心を痛めます。けれども子どもたちはおとなを真似ているだけです。いじめている子、いじめられている子、見ているだけの子。どの子のココロの中にも「絶望」を感じます。それはおとなの責任です。

「仕組み」を考える
「逃げ出しにくい」場所で、いじめはひどくなる
いじめは、学校や会社のような「限られた空間のなかに、大勢の人が、長時間いっしょにいて、仲よくしなければならない」とか、「教師(上司)が生徒(部下)の運命を簡単に左右できる」といった"世の中の仕組み"のなかで起こりやすくなります。勉強や仕事をするだけでなく、自分を受け入れてもらうために媚びたり、「友だちごっこ」を強いられたりしなければなりません。そのうえ、「学校(会社)は少々のことではやめてはいけない」という生活の事情や社会全体の"決めつけ"があります。こうした物理的にも心理的にも「逃げ出しにくい」状況で、誰もが少しはもっている憎悪や妬みといった感情が大繁殖するのです。

辛淑玉さん 辛淑玉(しん すご)
1959年東京生まれ。人材育成会社「香科舎」、「人材育成技術研究所」代表。人権に関わる講習・講演会を多数行っている。UCSD(カリフォルニア大学サンディエゴ校)の客員研究員として人権問題に取り組む。「怒りの方法」など著書多数。
内藤朝雄さん 内藤朝雄(ないとう あさお)
1962年東京生まれ。愛知県立東郷高校を中退。山形大学、東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。現在、明治大学文学部助教授。専攻は社会学。著書に「いじめの社会理論」(柏書房)、「いじめと現代社会」(双風社)など。
コマ2
コマ3
コマ4
コマ5


~「思いやりをもちましょう」「がんばれ」は何の効果もありません~
(その2)

コマ6 「心」を考える
「いじめてもいい理由」なんて絶対にない

「ガンバレ!」は残酷な言葉です。よく、いじめられている子に「ガンバレ」「いじめに負けるな」と言う人がいます。けれど、その子はもう十分にがんばっています。がんばってがんばって、我慢して、だけどもうどうしようもないから苦しくてたまらないのです。それ以上、どうがんばれというのでしょうか。いじめられている子に「ガンバレ!」と言うだけなら、加害者を野放しにし、「自分は責任を負いませんよ」と言っているのと同じです。いじめは、常にいじめる側の問題です。「いじめてもいい理由」なんてありません。いじめられている子を叱咤激励するのではなく、いじめている子に「やめなさい!」と言うべきなのです。

「仕組み」を考える
いじめは心がけや思いやりの問題ではありません。
いじめとは、相手がつらいと感じることをわざわざやるものです。ですから「相手の気持ちを考えましょう」「思いやりをもちましょう」などと言うのは無意味です。逆にいじめを助長することにもなりかねません。大事なのは、学校や会社の中で「たとえどんなに気が合わない人でも、暴力や無視や仲間はずれは絶対にいけない」というルールを徹底することです。そしてルールを破った人は、立場や年齢に関係なくペナルティを受けなければなりません。人の物を盗んだり、わざと壊したりすれば罪になります。人をわざと痛めつけるいじめも「罪」としてルールを明確にし、「仲間うちの論理」を飛び越えて対応する必要があります。

辛淑玉さん 辛淑玉(しん すご)
1959年東京生まれ。人材育成会社「香科舎」、「人材育成技術研究所」代表。人権に関わる講習・講演会を多数行っている。UCSD(カリフォルニア大学サンディエゴ校)の客員研究員として人権問題に取り組む。「怒りの方法」など著書多数。
内藤朝雄さん 内藤朝雄(ないとう あさお)
1962年東京生まれ。愛知県立東郷高校を中退。山形大学、東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。現在、明治大学文学部助教授。専攻は社会学。著書に「いじめの社会理論」(柏書房)、「いじめと現代社会」(双風社)など。
コマ7
コマ8
コマ9
コマ10


~逃げても泣いてもいい。世界は広く、仲間はきっといる~
(その3)

コマ11 「心」を考える
逃げるのは、自分を守るための手段

私もまた「朝鮮人のくせに」と言われ、無視され、時には暴力を受けました。そんな私が今思うのは、自分が傷つけられると感じたら「とにかく逃げよう」ということです。逃げるのは情けないことではなく、自分を守るための手段です。そして誰かに助けを求めるのです。「人をいじめるなんて許せないよ」と思っている人も「つらかったね」と共感してくれる人もたくさんいます。本当の自立とは、「私を助けて!」と人に言えることだよ、と子どもたちに伝えたい。そして私たちおとなは、子どもたちからのSOSを受け止め、応えていく覚悟と責任をもつこと。それは同時に、おとな社会のいじめに対してノーと言うことでもあります。

「仕組み」を考える
「自分がラクになれる居場所」が自分を守る
閉鎖的な場所では、特に無視や言葉の嫌がらせなど心にダメージを与えるいじめが多く起こります。逃げ場がないため、いじめられる側は自分の意思や好き嫌いを押し殺してでも相手に合わせ、仲間として認められようと無理をします。するとだんだん自分自身の本当の気持ちがわからなくなります。大切な自分を守るためには、学校や会社以外にも自分の居場所が必要です。塾、クラブチーム、趣味のサークルなど、好きなことを楽しみ、一緒にいて楽しい人と会う時間を増やしましょう。また、子どもたちに「暴力は決して許されない」というルールを教えつつ、子どもたちの居場所をひとつでも多くつくるのがおとなの責任です。

辛淑玉さん 辛淑玉(しん すご)
1959年東京生まれ。人材育成会社「香科舎」、「人材育成技術研究所」代表。人権に関わる講習・講演会を多数行っている。UCSD(カリフォルニア大学サンディエゴ校)の客員研究員として人権問題に取り組む。「怒りの方法」など著書多数。
内藤朝雄さん 内藤朝雄(ないとう あさお)
1962年東京生まれ。愛知県立東郷高校を中退。山形大学、東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。現在、明治大学文学部助教授。専攻は社会学。著書に「いじめの社会理論」(柏書房)、「いじめと現代社会」(双風社)など。
コマ12
コマ13
コマ14
コマ15