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子どもたちの間に起きているいじめを「何とかしよう」とさまざまな取り組みがなされています。胸を痛めている人も多いでしょう。けれども私は、いじめはおとなが子どもたちの関係に介入し、“指導”することで何とかなるものではないと考えています。 「チャイルドライン」(子どもからの電話相談)や「子ども家庭相談室」を通じて子どもと話していると、おとなが思っている以上に、子どもたちが葛藤や悩みを抱えながら生きていることが伝わってきます。たとえば、いじめに遭っても親に話すことをためらう子。いじめられている自分を恥ずかしく情けないと思っていることもありますが、親に心配をかけたくないという思いもあります。いじめの当事者であるというしんどさと同時に、そういう子をもった親の気持ちを慮り、「知られたくない」と悩んでいるのです。 そうした子どもの声や姿に接するたびに、子どももひとりの“生活者”であり、ただ保護されているだけの存在ではないと強く感じます。悩み苦しみながら、それでもなんとか解決しようと一生懸命に考え、生きているのです。
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いじめは、いろいろな問題が複雑にからみあっています。いじめている子を叱り飛ばし、あるいは隔離しても、本当の意味での解決にはなりません。 ある子が、「先生はすぐに誰が悪いかを決めて、“悪い子”に謝らせる。謝ったら解決したと思ってるけど、違うよ」と言いました。いじめられていたある子は「謝ってほしいわけじゃない。自分がどういうふうにしんどい思いをしたかを伝えたい」と言いました。おとなが善悪を決めて“指導”するのではなく、つらい思いをした子が自分の言葉で語る場を保障することが回復につながるのです。 親友だと思っていた子からひどいいじめを受けた子どもの相談を受けた時のことです。少しずつ話をしていくなかで、ポツリと「いじめているあの子もしんどいんだよ」と話してくれました。親からひどい虐待を受けており、消えない傷を見せてくれたことがあったそうです。 子どもの言葉を聞き、子どもがもつ“力”を感じました。いじめられてつらい時は、相手を消してしまいたいぐらい憎い。けれど誰かに話を聞いてもらいながら気持ちを整理していくと、相手のしんどさが見えてくる。そして、そんな力をもっている自分に気づいていくのです。
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また、今の子どもたちは、お互いとても気を遣い合っています。相手を思いやるというよりは、摩擦を恐れているように感じます。たとえば「メールが来たら、すぐに返さないといけない」というように、自分の気持ちより、相手にどう思われるかを気にします。「なぜ、そこまで?」と思うのですが、実はおとなたちの姿をそのまま反映しているのです。 子育て中のお母さん同士でも、ちょっとした言葉の行き違いが深刻なトラブルに発展することがあります。あいさつもしなくなり、ついには引っ越したというケースもありました。神経質なぐらい気を遣い合っているけど、いったん摩擦を起こしたら取り返しがつかない。子どもの世界は、そんな私たちおとなの姿を映し出しているように思います。 いじめも同じです。「いじめ」と書くと子どもの問題のように思ってしまいますが、おとな社会にもいじめは蔓延しています。弱い者は最初からマイナスの状態に置かれ、強い者はふんぞり返って大きな声を出す。お金や権力があれば、筋の通らないことでもゴリ押しできる。おとな社会には、いじめそのものの状況がいくらでもあります。 「いじめはいけない」と言っている先生たちの世界にも、いじめがあります。子どもたちはよく知っていて、「あの先生は校長先生には弱いけど、この先生には強い」などと言い合っています。相手によって態度を変える先生が、「弱いものいじめをするな」「一人ひとりを大切に」などと言っても、子どもたちの心には響きません。
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私たちは、「どんどん相談してください」「いじめをなくします!」とは言えません。いじめを少しでもなくすには、おとなが解決策や正解を子どもに教えたり、指導するということではなく、おとな自身が自らを振り返ることが重要だと考えています。 私たちの活動では、「子どもの声を聴く」という姿勢を一番大切にしています。しんどさを抱え、悩んでいるのは子どもなのですから、子どもから聴かないことには何も始まりません。そして実際に子どもと話していると、話すことによって子ども自身が変わり、成長していく姿を目の当たりにします。子どもはちゃんと生きる力をもっていて、おとなが「してあげられる」ことなど少ないのだと痛感します。「話を聴いてくれて、ありがとう」と言ってくれますが、勇気や元気をもらっているのは私たちのほうです。 「勝ち組」「負け組」などと言われますが、私は、物事はマイナスばかりでもプラスばかりでもないと思います。失敗や挫折のない人生などなく、勝って感じる悲哀も、負けて生まれる力もあります。負けたりいじめられたりしても、ともに泣き、憤る者がいること、あなたにはきっと乗り越える力があると信じる者がいることを知ってほしいのです。 これからも私たち自身が思い悩み、葛藤しながらも一生懸命に生きる者として、子どもの声に耳を傾け、一緒に考える姿勢を大切にしていきたいと思っています。
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