中村 信彦(なかむら・のぶひこ)さん 社会福祉法人とよかわ福祉会 専務理事 |
わたしの地元である茨木市豊川地区には、知的障害者通所授産施設「あゆむ」があります。焼きたてのパンを販売する「スワンベーカリー」にはパンを食べられる喫茶コーナーが併設され、地域の人たちが訪れます。また、近くの企業や役所などへの配達もしています。メンバーは30人で、ベーカリー担当のパン工房班のほか、公園の清掃やアルミ缶収集、畑での野菜づくりをする園芸リサイクル班、2階の工房でクッキーやゼリーをつくるハンドメイド班に分かれて作業をしています。 |
輝くんのいとこであり、隣人でもあったわたしも取り組みに参加しました。しかし、当時は「学校を卒業した後の居場所がない」ということに問題意識が集中し、障害者の自立生活や一般就労というところまでは思いが至りませんでした。 |
自分たちはどんな方向性をもてばいいのか。考えた末に、「福祉の受け手ではなく、担い手になっていこう」という思いに行き着きました。10数ヵ所の作業所を見学し、配食サービスや休耕田を借りて野菜をつくる「園芸セラピー」など、さまざまな取り組みを検討しましたが、どれも一長一短です。その時、ヤマト運輸の創立者である故・小倉昌男さんの『月給一万円からの脱出』という本に出会いました。「1ヶ月働いても1万円そこそこの収入という福祉の“常識”はおかしい。障害があってもきちんと稼げる仕組みはつくれるはずだ」という主張に「これだ!」と思い、ヤマト財団が展開する「スワンベーカリー」の経営に手を挙げました。 |
わたし自身は「スワンベーカリー」や「あゆむ」を一般就労へ向けた“通過施設”としてとらえています。ここでパン屋としてのスキルだけでなく、社会で働くうえで必要な能力を身につけ、いずれは一般企業や事業所に就職してほしい。しかし、実際にはまだまだ難しいのが現状です。本人や親は「人間関係や仕事内容が厳しい一般企業よりも、ここにずっといたい」と思うし、企業側には「障害のある人をどう受け入れればいいのかわからない」というとまどいがあるからです。 |