人権を語る リレーエッセイ

安田 廣勝(やすだ ひろかつ)さん 第24回
高齢者の就労・生きがいづくりは支援と意識改革から


生きがいワーカーズ連絡会 会長
安田 廣勝(やすだ ひろかつ)さん
「生きがいワーカーズ」の誕生
「生きがいワーカーズ」という名前をご存知でしょうか。急速な高齢社会の到来や生きがいづくりの重要性から、1999年に大阪府がスタートさせた「高齢者の就労的生きがいづくり活動」の支援事業です。その名の通り、生きがいづくりに加えてある程度の収入を得ることを目的としています。当初はそれぞれ手探りの状態で活動していたのですが、交流会をきっかけに「運営上の悩みを話し合ったり、情報交換ができたりする場をつくろう」と、生きがいワーカーズ連絡会がつくられました。2002年のことです。当時は52だったグループ数も今では100を数えるまでになりました。わたしは連絡会の会長として、また地元・和泉市で菜園事業を行うグループ「和泉ホットファーム」の代表として、この事業に関わってきました。
運営を続けていく難しさ
事業を興す場合、100万円を限度に助成金が出ます。これを立ち上げ資金とし、運営費は自分たちで賄っていきます。実はこれがなかなか難しいことだと実感しています。利潤をあげるというのは、プロである企業でも苦労するもの。素人の集まりが「儲ける」ことを活動の中心にするのは無理があります。もちろん基本的には、自分たちの生きがいを中心に地域の仲間と集まり、「人生の匠」といわれる高齢者のみなさんに力を発揮してもらいたい。けれど「就労的」となると途端に「どうやって儲けるか」という課題が前面に出てくるのです。
他にも共通の問題としては、代表を務めている人が健康を害された場合です。日頃から次期代表を決めておけばいいのですが、実際には代表ひとりにおんぶに抱っこということが多いのではないでしょうか。代表が抜けることがグループ全体の存続までも危うくなるケースが少なくありません。
また、業種によってはシルバー人材センターと競合してしまうこともあります。これについては行政と双方が集まって、選択は顧客に任せ、争わないことを話し合いました。
行政との関わりでいえば、行政としてはNPO法人のほうが仕事を下ろしやすいという事情があります。NPO法人ではない「生きがいワーカーズ」にとっては厳しいところです。
自分たちで“特徴”をつくり出す
さまざまな課題は出てきますが、もちろんうまくいっている例もたくさんあります。あるグループは100万円の助成金でパソコンを6台購入し、パソコン教室を開きました。一から教えるのではなく、利用者のニーズや興味に合わせて教えています。「高齢者のために、高齢者が教える」教室であり、80歳の女性が講師を務めているところもあります。実際、「こちらのペースに合わせて丁寧に教えてくれる」という利用者の声を聞きました。
菜園事業は難しい事業のひとつです。まず水の確保や雑草の始末などがあります。真夏の草抜きは高齢者にとっては厳しい作業です。草の勢いにこちらの気力が負けてしまうのです。また、安定供給が難しいため販売ルートが確立できない、ある時期に同じ野菜が集中してしまうということもあります。苦労してつくった野菜を、頭を下げて「もらっていただく」ということになり、複雑な気持ちになります。
しかしさまざまな工夫で乗り切っているグループがあります。育て方や防虫を工夫することで収穫を増やしたり質のいいものをつくったりしているグループ、新しい野菜づくりに取り組むグループ……。椎茸づくりを専門家に学び、本格的に取り組まれたところは、地域の催しなどで飛ぶように売れるそうです。その利益で揃いのハッピを購入し、さらにグループが一致団結したと聞きました。
従来のやり方を踏襲するのではなく、自分たちの特徴づくりに挑戦することから可能性が広がっていきます。
当事者だからこそできる高齢者へのサービス
平成17年度より、「高齢者就労的生きがいづくり活動支援事業」は、地域とのつながりをより重視する「高齢者コミュニティーワーカーズ活動支援事業」としてスタートすることになりました。高齢化が急速に進むなか、高齢者自身が生活者の視点で暮らしのなかの課題を発見・解決に努め、暮らしやすいまちを自らつくる活動を支援しようということです。大きな特徴は、これまで立ち上げ時の支援に限られていたのが、今後はグループ同士のつながりの強化やフォローアップ研修・ステップアップ研修など、立ち上げ後の支援にも力をいれていくことです。また、これまでに助成金を受けたグループでも条件を満たせば新たに創設された「先導型モデル支援事業」に応募が可能になります。
手作りパンの訪問販売で独居高齢者の方の話し相手をしたり、「地域通貨」を取り入れてサービスを提供しあう取り組みをしている地域もあります。「老老介護」という厳しい現実もありますが、自分たちが高齢だからこそ高齢者の気持ちがわかるということもあるのです。
支えてくれる人とのつながりを大切に
意欲的な取り組みがあちこちで始まっていますが、今後は団塊の世代が次々に定年退職を迎え、高齢化はさらに加速されます。一方で、年金問題をはじめ、国や自治体の財政状況は厳しいものがあります。自分たちの権利を主張するだけでなく、自分たちで新たな可能性をつくり出し、若い世代ともつながりながら地域の活性化や生きがいづくりと向き合う。そういった姿勢が高齢者の側にも求められるのではないでしょうか。