人権トピックス

「今」だから、考えたい。
ボランティア活動が、私を変えてくれました。
初めてのボランティア活動で、山の中の施設を訪問したのは、中学1年生の時。
身体の不自由な、大勢の子どもたちに取り囲まれた私は、何も言えず立ちすくみ、泣いてしまいました。
そこで知ったのは「いろんな人がこの世に生きている」ということ。
そして、社会の“普通のライン”に合わない人たちにとって、
この世の中は、とても不便で、住みにくい、ということでした。
それから、私は変わりはじめました。
それまでは、すごく照れ屋で、自分のことがあまり好きじゃなかった私が、
自分がとても恵まれていたことに気づき、はじめて本気でまわりのことを考えはじめました。
実は、歌手になったのも、施設の子どもたちへの募金集めのため
友達とグループを組んで、学校の昼休みにギターを弾いて
歌っていたことがきっかけなんです。
自分に余裕のないとき、自分のことばかり考えていても、余裕は絶対に生まれません。
そんなときには、まわりのことに取り組むと、自分にできることが見えてくる。
できることをやっていけば、かならずエネルギーの出口が見つかって、楽になる。
それが、ボランティア活動が私に教えてくれた“魔法”でした。


違いがあるからこそ、人生は面白くなる。
1985年のエチオピアでの体験は、私の人生を大きく変えました。
その年、エチオピアでは、内戦と干ばつで何百万人もの人が亡くなりました。
目の前で、たくさんの子どもたちが、飢えと病気のために死んでいったとき、
「この命の灯は、絶対に消しちゃいけない!」という強い思いとともに
それまで知らなかった力が、自分の中にわいてきました。
エイズ、児童買春、児童虐待、そして戦争……世界には、悲惨な現実に直面し
苦しみに耐え続けている子どもたちが、本当にたくさんいます。
50以上の国は現在も戦時下にあり、年間1100万人が、5歳前に死んでしまいます。
でも、どんなに小さな命も、きらきらと輝いているんです。
小さな手、熱いまなざし、大粒の涙、無邪気な微笑み、抱きついてくる期待……
たくさんの「声なき子どもたち」から、託された伝言を、
ひとりでも多くの人に届けていくことが、今の私の使命です。
平和への一番の鍵、それはみんなが同じになることではありません。
大切なのは、お互いの違いを認めあい、尊重しあうこと。
違いは神様からの贈り物。だからこそ私たちの人生は面白くなる。
一人ひとりの力は小さくても、みんなが力を合わせれば、必ず大きな流れになる。
そう信じて、これからも活動していこうと思っています。



(プロフィール)
アグネス・チャン

香港生まれ。69年に歌手デビュー、72年に「ひなげしの花」で日本デビュー、一躍人気アイドルに。その後上智大学国際学部を経てカナダ・トロント大学(社会児童心理学)を卒業。89年には米国スタンフォード大学に留学、94年教育学博士号を取得。98年には初代の日本ユニセフ協会大使に就任し、タイ、スーダン、東ティモール、フィリピン、イラクなどを公式訪問。現在は歌手活動のほか、エッセイスト、大学教授、小説家など多方面で活躍中。
(2002年 カンボジアにて)