人権を語る リレーエッセイ

○○○○○○氏 第2回
家族の愛情プラス社会的支援で「納得のいく人生」を



大阪後見支援センター所長
大國 美智子 さん

 

30年前から実感していた財産問題の深刻さ

2000年度より介護保険がスタートして以来、痴呆のある高齢者や知的あるいは精神障害を持つ人の財産管理をはじめとする権利擁護を行う「地域福祉権利擁護事業」そして「後見支援制度」が相次いで立ち上げられました。しかし、実はずっと以前から現場で相談業務に関わるケースワーカーや保健師などの間では、こうした方々の財産や権利をいかに守るかということが大きな課題でありました。そしてそれは約30年前から高齢者問題に取り組んできた私にとってもおなじでした。
昭和50年代のことですが、寝たきりの高齢者を保健師さんたちと一緒に訪問すると、痴呆にまつわるさまざまな問題に直面しました。また、財産に関する問題は深刻で、「お年寄りを家族が守る時代は終わった。これからは社会によって守られなくてはならない時代がくる」という予感がありました。
たとえば「よく面倒を見てくれるから」と娘にどんどんお金を渡していた。ところが痴呆が出たとたんに行方をくらませてしまい、世話をする人もお金もない高齢者が一人取り残されてしまう。一方で、知的あるいは精神障害をもつ人の親御さんは「親亡き後」を思うと夜も眠れない。責任を放棄する人、責任を感じて苦しむ人。立場は違っても「親子」「財産」という問題は共通項です。年々、切実な声が多く上がってくるようになり、大阪府では全国に先駆けて1997年度より大阪後見支援センター「あいあいねっと」が開設されました。

 

本来の優しさを取り戻せる制度を

高齢者の場合、一人暮らしの方の支援は比較的スムーズです。ところが親の年金をあてにする家族が一緒に暮らしていると話がややこしくなります。場合によっては弁護士に入ってもらい、法的措置をとることもあります。事業に失敗した子どもが年金生活の親に泣きつくなど、最近は不況の影響を実感するケースも目につきます。また、今も「家のことには立ち入らせない」「福祉を利用するのは家の恥」という意識が根強く残っているところもありますし、虐待や財産侵害の実情がなかなかつかめないということもあります。
私はこれまでに1万件を超える相談を受けてきましたので、介護の大変さはとてもよくわかりますが、それ以上にすばらしい場面を見てきました。たとえば軟便が出た寝たきりの妻に「いつも便秘で苦しいのに、今日はよかったなあ」と言いながら下の世話をする夫。あるいは重度心身障害のある息子を、腰を痛めながらも笑顔で30年以上も世話してきたおかあさん。こんな場面を多く見てきたので、人間とは本質的に優しい気持ちを持っていると信じたいと思っています。しかし、その優しい気持ちを持つ人が社会的なプレッシャーに負けた結果、財産侵害や虐待という形で出てくるのではないでしょうか。プレッシャーをやわらげる制度があれば、きっと優しい気持ちも取り戻せるでしょう。

 

問題の背景を見抜く感受性をもって

今後、高齢化が進むにつれて痴呆の問題が増えていくのは確実です。介護する側の人たちには痴呆や制度に対する知識をしっかり持っていただき、偏見をなくしてほしいと願います。
この知識の有無が対応をまったく変えてしまいます。また、最近は福祉の仕事を目指す若い人たちが増えているようですが、そうした人たちには技術や知識だけでなく、現場で感受性を磨いてほしいと思います。たとえば、虐待が起きた時、虐待が起きた背景を読み取る力がなければ本当の問題解決にはなりません。床ずれひとつとっても事情は家庭によって違います。家庭が抱えている問題のひずみが、一番立場の弱い人のところに出てくることもあります。それを見抜く力を身につけてほしいのです。
高齢者、障害者にかかわらず、これからの介護は家族の愛情と社会的介護のバランスが大切です。介護する人も受ける人も「納得のいく人生」を送れるよう、制度の充実と人材の育成に私も力を尽くしていきたいと考えています。