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..令和3(2021)年度 第1回...

難民を受け入れない社会から支え合う社会へ

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ラフィック

RAFIQ(在日難民との共生ネットワーク)

共同代表 田中惠子さん


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難民が「いない」のではなく「受け入れていない」という現実


 RAFIQとはペルシャ語、アラビア語で「友だち」という意味です。初めて支援したアフガニスタン難民の母国語から名付けました。同じ時代、同じ地球に生まれた者同士、助け合いたいという思いで活動してきました。

 難民は移民と混同されることがありますが、「自分の意思」かどうかが決定的な違いです。生命ないし自由に対する脅威、その他人権の重大な侵害があるか、その可能性のある人、出身国から去らざるを得なかった人が「難民」です。当然、出身国の保護は受けられません。

 メディアで「ネットカフェ難民」「帰宅難民」など、「行き場のない人」「困っている人」の代名詞のように使われますが、そのイメージで難民を「お金に困って仕事を求めに来た人」と間違った解釈する人が多くいます。メディアのみなさんには「難民」という言葉を軽く扱わないでほしいと願います。

 「日本に難民問題はない」「難民に会ったこともない」という声をよく聞きますが、そもそも日本は難民の受け入れが諸外国に比べて非常に少ないのです。例えば2017年から2019年の3年間で約4万人が難民申請をしています。日本の認定率は極端に低く、例えば2018年はわずか0.3%で、42人しか認定されていません。一方、世界の主要国では、1国あたり数千から数万人が難民認定されています。つまり「難民が来ない(いない)」のではなく、「難民を受け入れていない」ということになるのではないでしょうか。

*認定率=難民認定数÷(難民認定数+不認定数)

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「人権がない」存在

 
 国際社会で難民条約が制定されたのは1951年、日本は1981年に加入しました。加入した国は国内法を整備しなければなりません。そこで「出入国管理および難民認定法」という法律をつくりました。

 入国管理とは外国人を排除も含めて「管理」する法律です。一方、難民は難民条約に基づき、「保護」する対象です。管理と保護をひとつの法律でまとめ、外国人を管理していた出入国管理局がその業務を担うことになりました。

 ゆえに、難民は保護する存在であるにもかかわらず、「難民認定法」が「管理」の立場で行われることにより、さまざまな問題が起きていると私は考えています。

 例えば難民申請を審査して対応を決める2ケ月の振り分け期間があります。この期間には在留資格がないため、住民登録や健康保険の加入ができません。今や生活必需品の携帯電話の契約もできません。就労も禁止のうえ、給付金や具体的な生活支援もありません。基本的な市民的権利がすべて奪われた状態で、いったいどのように生活すればいいのでしょうか。私は日本のなかで難民が一番「人権がない」と思っています。

 諸外国では家族と一緒に過ごせるファミリールームも備えた施設を用意する、家族のうち誰かが働けるようにする、生活保護のような給付金を支給するといったサポートをおこなっています。日本にできないはずはないし、むしろこうした最低限の保護をする責任と義務があると私は思います。

sub_ttl00.gif難民認定の基準を踏まえた判断を

 
 人権がない状態の難民に必要なものはたくさんあります。まずは難民申請者の保護です。難民には自分の迫害理由の実証責任があります。申請書は28カ国語に対応していますが、証拠となるものは自分で日本語に訳さなければなりません。また、難民調査官による聞き取りにはサポートをする代理人の同席は許されません。通訳をつけることはできますが、日本語の方言と同じく、同じ国でも地方によって言葉の使い方や意味が違います。微妙なニュアンスまで理解して通訳するのはとても難しく、誤解を生みやすくなっています。

 難民条約には「灰色の利益」という項目があります。判断が難しい場合は難民の利益になるほうを取るという意味ですが、日本は完全な証拠がない限り、難民として認めません。難民認定では、国際基準をしっかり踏まえた上で、判断していくことが求められているのではないでしょうか。

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環境を整え、社会を支える存在に

 

 私たちはコロナ禍で情報発信を強化しました。フェイスブックやツイッターでの発信を増やしたところ、約300人だったメールマガジンの読者が450人に増えました。「世界難民の日」に開催したオンラインイベントは1ヶ月の視聴可能期間に1100を超える視聴がありました。入管や難民の問題に関心を抱く人が増えているのを実感しています。2002年のRAFIQ設立時から開催している難民初級講座は現在オンラインで開催しています。

 一方、私たちが支援している難民が地域コミュニティとつながるきっかけとなっている日本語教室はコロナ禍で休止となり、地域との交流がしにくくなっています。難民にとって日本語教室は、生活していくための知識や情報を得ることができると同時に、生きていくことの厳しさも学ぶことができます。コロナ禍で厳しい状況ではありますが、日本語教室の再開が望まれます。

 RAFIQにつながる難民はごく一部です。私はどこにもつながらず、「存在しない人」になっている人たちが気がかりです。日々の生活を送っていく上で、地域の住民や自治体などの様々なサポートも不可欠です。国や行政には実態調査をおこない、難民の数とニーズを把握してほしいと思います。

 難民支援をしていると、難民になるまでの彼らの生活を知ることになります。出身国で教育を受け、家庭をもち、キャリアを積んできた人たちが多くいます。例えばドイツはこれまでに100万人以上の難民を受け入れてきました。困難もあるでしょうが、難民たちも経済を支える存在になっています。日本も難民がもっているさまざまなスキルを生かせる環境を整えれば、日本全体の経済や生活の向上にもつながると思います。「違い」を排除するのではなく尊重しあえる、難民を受け入れる社会へと変えていけるかどうかで日本の未来は変わるのではないか、と私は思います


                        (2021年10月掲載)