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・・・・・ H28(2016)年度 第 6 回 ・・・・・

帰るところのない

傷ついた子どもに

「居場所」と継続的な支援を

特定非営利活動法人 

子どもセンターぬっく 

理事長 森本 志磨子 さん

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子どもたちの緊急避難所「ぬっく」

 

  

 2016年4月、子どもシェルター「ぬっくハウス」を開設しました。私は「ぬっくハウス」を運営するNPO法人子どもセンターぬっくの理事長を務めています。「居場所のない子どもたちに安心できる場を提供したい」と準備を始めてから4年余り、ようやく開設にこぎつけました。

 子どもシェルターとは、貧困や虐待などにより家庭が安全・安心な居場所ではなくなっている子どもたちのための緊急避難所です。おおむね15歳から20歳未満の子どもたちが対象で、常駐スタッフが食事をはじめとする日常生活をサポートしています。入居期間は数日から数ヵ月程度です。「ぬっく」では、1人ひとりに弁護士がつきます。また、たくさんのボランティア(ぬっくメイト)が、料理・お菓子作り、散歩・買い物の同行、スポーツ・DVD鑑賞など、入居中の生活全般に寄り添い、かつ、退居後も電話や面会を継続的に行い、食事・買い物・掃除など生活全般をサポートします。



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出会った子どもたちとしっかり関わりたい

 

  

 なぜ私が「ぬっく」のような活動を始めたのか。それは弁護士になった理由とも通じるかもしれません。子どもの頃から、人に喜んでもらうためにあれこれ考えたり工夫したりするのが好きでした。手紙を書くにも形式的なのがイヤで、納得のいく表現ができるまで何度でも書き直したものです。国連職員や学校の先生をめざすことも考えましたが、最終的には「身近なところで具体的に人の役に立ちたい」と弁護士の道を選びました。

 弁護士業務をしながら、子どもの権利委員会での活動をはじめ、さまざまな活動に関わりました。CVV [i] スタッフとしての活動や、法律家としてDV、性被害、いじめを受けた子どもたちの権利保障を図る活動を通じて、「こんなひどいことがあっていいのか」と憤りを感じたり、無力感を抱くことが多々ありました。そして次第に「多くの子どもと関わることはできないかもしれないけれど、せめて出会った子どもとはしっかり向き合っていけたら」と考えるようになったのです。未成年の時に事件を起こした子が、30歳を過ぎてからも良好な人間関係を築くことができずに荒れた生活を送っていたり、犯罪を繰り返したりしていることも少なくありません。虐待やDVの被害を受けて家を飛び出し、野宿生活を送る10代や20代の人もいます。「もう少し早く出会っていれば」「もう少し早く適切な支援を受けられていたら」というケースをひとつでも減らしたいと思っています。



[i] CVVとは 社会的養護の当事者エンパワメントチーム。社会的養護当事者(児童養護施設や里親家庭等社会的養護で育った人たち)をエンパワメントしています。子どもたち(Children)の視点(Views)や声(Voices)を大切にし施設での生活や退所後の生活をよりよくしたい、という思いが込められています。


 



sub_ttl00.gif 自分が動かなければ始まらない

 

  

 もうひとつ、自分の人生について改めて考えるようになったということもあります。もっと子どもに関わる活動をしたいと思いながらも、目の前の仕事に追われる日々でした。弁護士になって10年を過ぎた頃には仕事もルーティンで回る部分もあり、「このまま流されていていいのか」と不安に思うようになりました。ちょうどその頃、坐骨神経痛になり思うように歩けないという状態が8ヵ月ほど続いたのです。体力には自信があっただけに「このまま思うように動けなくなったらどうやって生きていけばよいのか」とひどく落ち込みました。同時に「人生もそろそろ折り返し地点なので、一日一日を充実させて悔いのない人生を歩みたい」と強く思い、また将来に備えて準備するばかりでなく、今この瞬間をもっと大切にして生きたいと思うようになりました。

 ただ、自分が理事長になることは考えていませんでした。何人かの方にお願いしましたが、さまざまな事情で引き受けてもらえず、逆に「森本さんがやればいい」と言われたのです。それまで自分は力不足だからと理事長になることは考えもしませんでしたが、それでも自分が動かなければ何も始まらないと痛感し、「やるしかない!」と覚悟を決めました。若手の弁護士を中心に一緒にやりたいという協力者が徐々に増え、NPO法人児童虐待防止協会理事長の津崎哲郎さんが副理事長を引き受けてくださり、開所2ヵ月前にホーム長も決まったことで、ようやく子どもシェルターの開設にこぎつけました。

 

sub_ttl00.gif 児童福祉の観点を踏まえた継続的な支援を

 

  

 実際に子どもシェルターの運営を始めると、日々、新たな課題が出てきます。子どもたちとの関わり、行政との連携、ボランティアの確保、お金のやりくり----。取り組むべき課題は本当にたくさんあります。しかし、他府県も含め相談や支援要請が絶えることはありません。ニーズがある以上、できる限り対応していきたいとスタッフやボランティアとともにがんばっています。さまざまな人や機関と対等に話ができる「弁護士」という立場や法律の知識は、ある意味"武器"として力を発揮してくれています。

 そのなかで痛感するのは、もっと支援の対象を広げ、対応できることを増やしていく必要があるということです。2016年の児童福祉法改正で,自立援助ホームの対象年齢が,大学就学中の場合については22歳の年度末までに引き上げられました。けれども私は30歳まで、せめて25歳まで引き上げてほしいと思います。厳しい環境での生活が長ければ長いほど、回復や自立にも時間がかかります。子ども時代の深い傷つき体験をもっている人には、児童福祉の観点からのサポートが必要です。よく「育ち直し」といいますが、残念ながら10代後半にもなればすべてをやり直すことはきわめて困難です。それでも時間をかければ、そしてより早く支援につなげられたなら、基本的な人への信頼感を取り戻す可能性があります。逆に傷つきの体験が重なれば重なるほど、回復には時間がかかります。「ぬっくハウス」は一時的な緊急避難所ですが、今後はぬっくメイト活動を充実させるとともに、1、2年という長期間をかけて段階を踏んで社会へつながっていける「ステップハウス」の開設を目指していきたいと考えています。



H28(2016)年11月掲載