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リレーエッセイ
中野 冬美(なかの ふゆみ)さん 第49回
母子家庭の自立支援は実態に即したものを


中野 冬美(なかの ふゆみ)さん

特定非営利活動法人 しんぐるまざぁず・ふぉーらむ関西 事務局長


実感とかけ離れた全国調査の結果

 先日、厚生労働省が「2006年度全国母子世帯等調査結果」を発表しました。そこで2003年度の調査結果と比べて、常用雇用が増えたとされています。けれども「しんぐるまざあず・ふぉーらむ関西」に集まってくる声や私たち自身の実感とはずいぶんかけ離れています。2003年度の調査結果でも、臨時・パートは常用雇用より10%ぐらい多いだけだとされていて、ずっと違和感を持ち続けてきました。これはどういうことなのだろうと検証してみると、「常用」という言葉の使い方に問題があることに気づいたのです。
 厚生労働省が通常使っている「常用雇用」の定義は、「期間を定めず、または1ヶ月を超える期間を定めて雇われているもの。日々または1ヶ月以内の期間を定めて雇われているもののうち、調査期間の前2ヶ月にそれぞれ18日以上雇われたもの」となっています。要するに「正規雇用」とは別物なのです。ほとんどのパートタイマーは「常用」として数えられるでしょう。社会保障は十分でなく、ボーナスもなく、昇給もほとんどない。「常用」という言葉のイメージとはほど遠い実態です。となると、「臨時」のほうに区分けされた人たちは一体どんな働き方をしているのだろうかと心配です。    

命綱を削ってつくられた自立支援事業への疑問

 平均年間就労収入についても同じ「言葉の使い方のカラクリ」を感じます。今回の調査結果では全国の母子世帯の平均年間就労収入が171万円であり、前回よりも9万円増えたとされています。また、児童扶養手当などを含めた平均年収は213万円で、こちらは前回より1万円増です。こうした数字を挙げられると、母子家庭を取り巻く状況が改善されてきているかのように思われるでしょう。しかしこれはごく一部の高収入の専門職に就いている人たちを含めた数字であり、実際には収入ゼロから150万円前後の人たちが一番多いのです。データの真ん中の値を表す中央値としては、就労収入が140万円前後、年収は190万円弱となっており、母子世帯の年収の実態としてはこちらのほうが私たちの実感と重なります。全世帯の平均年収564万円の3割強に過ぎず、その差は歴然です。
 厳しい経済状況にある母子家庭にとって、児童扶養手当は命綱です。ところが国は児童扶養手当を削減し、そのぶんを就労支援など自立支援事業に当てる方向へと動いています。確かに安定した就労は母子家庭の母親にとって悲願であり、安定就労に結びつく就労支援であれば私たちも大歓迎です。ところが残念なことに、現在行われている自立支援事業は切羽詰った人には非常に利用しにくいものなのです。  

非常に利用しにくい自立支援給付金制度

  自立支援事業の最も大きな柱が「自立支援給付金事業」で、自立支援教育給付金と高等技能訓練促進費のふたつがあります。しかし高等技能訓練促進費を受けられるのは、看護師、介護福祉士、保育士、理学療法士、作業療法士の5業種の資格取得に限られています。市町村の裁量で業種を広げることも可能なのですが、うちへ相談に来られた人は「司法書士の資格を取りたい」と申し込んだところ、「なれるかどうかわからないからダメです」と言われたそうです。
 この制度を利用する人は看護師を目指す人が圧倒的に多いのですが、今、看護師も非正規雇用がどんどん増えています。子どもを抱えて夜勤も難しい母子家庭の母親が正規雇用される可能性は低いのが現実なのです。また、この制度は学ぶ期間のうち、最後の3分の1の期間だけ月に10万3千円のお金が支給されるというものです。これではとうてい子どもとの生活は成り立ちません。自立支援教育給付金は入学金や受講料の20%が支給されますが、上限が10万円です。いずれにしても、よほどの蓄えがあるか、親などの支援がある人でなければ利用できない形になっているのです。
 実際、これまでに高等技能訓練促進費の給付を受けた人は2,344人で、そのうち就労できた人は約1,000人だそうです。児童扶養手当を受けている母子家庭は98万世帯で、来年から行われる手当の削減の対象となるのは70万世帯だといわれています。命綱を削ってまで行う事業ならば、利用しやすく、安定した就労や収入に結びつくものにしてほしいと声を大にして言いたいのです。  

誰もが自分の生き方を選び、安心して暮らす権利をもっている

 社会全体で非正規雇用が増えている今、正規雇用だけにこだわるのも無理があります。大阪市が以前行った調査では、1ヶ月に必要な収入として、平均20万円という数値が出ています。そのためには1,400円から1,500円の時間給が必要です。非正規雇用でも生活できるだけの賃金を最低賃金として定めるという方向に、日本の労働システム自体を転換していく必要があると思います。また、1日休めば仕事を失う可能性すらある母親のために、有給の看護休暇制度の充実と、病気になったときすぐ預かってもらえる病児保育の制度が必要です。そしてどうにも立ちゆかなくなった時に頼れるセーフティネットも欲しいのです。
 こうして社会に対して現状を訴え、要望を発信すると、「好き勝手に離婚しておいて、ぜいたくを言うな」という非難が必ずきます。ぎりぎりの状況にいる人ほど、許せないという気持ちになるようです。今、あちこちでしんどい人がよりしんどい人を見て安心したり、叩いたりする状況が見られます。自分がしんどいのはなぜなのか、本当に悪いのは誰なのかが見えなくさせられていると感じます。誰もが自分の生き方を選び、安心して暮らす権利をもっています。私たちの活動を通して、そのことも伝えていけたらと思います。    

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