主な人権侵害事象(差別事象を含む)状況

「大阪で起こっている差別の現実~実際の差別事象から~」コーナー

同和問題に関する図書館の蔵書への差別落書き

ポイント

  • 今回の事象の特徴は、図書の中に書くという、閉鎖的環境の中での行為であり、中身を見ない限り、発見が難しい事件です。
  • 差別落書きは、差別意識や偏見を助長・拡大させる極めて悪質な行為です。差別落書きは消したら済むものではなく、人の心を深く傷つけるもので、決して許されるものではありません。
  • 公共物への落書きは、刑法に定める名誉毀損罪、侮辱罪や器物損壊罪といった犯罪になる場合もあります。

◇事例の概要

  • 2010(平成22)年8月、大阪市内の図書館利用者の指摘で、図書の中に差別落書きが発見されました。
  • 差別落書きは、図書の1ページ一面にマジックで書かれており、不特定多数の人が利用する図書館の図書に書き込んでおり、差別を助長・拡散する意図をもった極めて悪質な差別事象です。
  • 差別落書きは、図書の1ページ一面に大きく書き込まれており、一目で落書きがわかるように書かれていました。また、落書きの筆跡が似ていることから同一人物による落書きと考えられます。
  • 発生した差別落書きは次のとおりです。
    実際に落書きがされた図書
    縦20㎝×横10㎝ぐらい
    縦書きで差別用語である
    「エタ」と黒フェルトで書かれていました
  • 同様の落書きとして、縦書き・大きさ「縦20㎝×横10㎝ぐらい」・黒フェルトで書かれた落書きが、次の内容で見つかりました。
    「エタ」(*2):4ページ分・5箇所
    「ぶらく」:1ページ分・1箇所
    「えた」(*2): 1ページ分・1箇所
    「非人」(*3):1ページ分・1箇所

    (*1)ここでは、差別落書きの悪質さを伝えることが重要であると考え、また差別落書きのあった事件の信憑性を保つため、差別用語をあえてそのまま掲載しています。

    (*2)「エタ」「えた」は、穢れ(ケガレ)意識に基づく差別用語であり、歴史的・社会的背景により、偏見や忌避意識の現れとして同和地区出身者(被差別部落の人々)のことを指す差別用語です。同和地区(被差別部落)は、中世の社会的差別によって形づくられ、江戸時代には法的、制度的に「穢多(えた)」身分などとして固定され、今日の一般的な同和地区につながり、同和地区出身者を「エタ」と称していると考えられています。(一部、NPO法人ニューメディア人権機構「ふらっと~人権情報ネットワーク~」より引用、当協会が編集)

    (*3)「非人」(ひにん)とは、中世・近世における賎民身分の呼称の1つであり、差別用語です。「えた」などの卑賤視階層の総称の1つとして使用され、それが歴史的・社会的背景により、偏見や忌避意識の現れとして同和地区出身者のことを指す差別用語です。

◇事例の差別性

  • 落書きの「エタ・えた」と「非人」は差別用語であり、明らかに同和地区(被差別部落)出身者に対する部落差別です。
  • 差別落書きは、一目で落書きがわかる大きさで、不特定多数の人が利用する図書館の図書に書き込まれていることから、図書を開けて見ないとわからない(すぐに発見できない)という計画的な行為であり、同和地区への偏見、差別を助長する行為であると思われます。
  • 差別落書きをおこなった行為者は、これらのことを理解しながらおこなわれていると考えられ、悪質な差別行為であると言えます。

◇事例の対応

  • 所蔵している図書の点検、全地域図書館への周知及び巡視の強化を徹底。
  • 差別落書きをおこなった人物がわからない状況ですが、悪質な差別事象であることを重く受け止め、再発を防止するためにも、大阪市では大阪市民への啓発に取り組まれています。
  • 大阪市として取り組まれている今後の対応策は、次のとおりです。
    1. 図書館利用者等に対する人権啓発の取り組みの強化(啓発ポスター掲示等)及び事象の早期発見
    2. 再犯防止に向けて一層の巡回を強化
    3. 警察へ器物損壊として被害届を提出
    4. 落書きがされた図書の現物保存

◇今後の課題

  • 落書きが行われたのが、図書が貸し出し時あるいは図書館内での閲覧の時の行為かは不明であり、行為者を特定しにくい差別事象です。
  • また、図書の中への落書きは、一見ではわかりにくい(発見しにくい)側面があり、落書きしている行為が見えにくい問題があります。