同棲相手からのドメスティック・バイオレンス(DV)被害の相談
同棲相手からドメスティック・バイオレンス(DV)を受けている患者についての病院からの相談
<相談のあらすじと対応のポイント>
- キーワード:DV
- 相談者:女性(22歳、外国籍、妊娠中)
- 家庭状況:同棲パートナー(男性、41歳、離婚歴あり)
子ども2人(8歳、2歳)
※パートナーの実家で暮らしている。
同棲パートナーの両親(実母と義父) - 相談の主訴:パートナーに暴力を振るわれるため家を出たいが、他に行くあてもなくどうしていいかわからない
家庭状況の図
●相談の経路
- 産婦人科に通院中の妊婦から、健診時に同棲中のパートナーからDVを受けているという相談が病院にあったとのことで、病院から市人権文化センターへ対応についての相談があった。
- 相談者に対するパートナーの監視がきつく、相談が可能なのは健診の時だけとのことであったため、健診時に市人権文化センターの相談員が同席し、相談を受けることとなった。
●相談内容等
- 1. 基本情報
- (1)相談者
- 母語以外に日本語を話せ、読み書きができる。
- 性格的には明るいが、他責傾向あり。たくさんのことができず、整理して考えることが苦手だが、メモをとると理解できる。障がいの傾向は見られない。
- 今は仕事もできておらず、自分はパートナーに拾ってもらったようなものであると感じている。また、一人は寂しいと感じている。
- パートナーの母をすごく怖いと感じており、家の中でパートナーの母と顔を合わせないようにしている。
- (2)パートナー
- 口調が荒く、仲間同士のグループではリーダー的な存在。
- 前妻とはDVが原因で離婚しており、前妻との間の子どもが2人いる(8歳と2歳)。
- 定職についていない。
- 相談者のことが可愛く、ひと時も離れないが、短気ですぐにけんかとなり、暴力をふるう。
- (3)子ども(パートナーの連れ子)
- 相談者になついており、相談者も可愛がっている様子。
- (4)パートナーの両親
- 自営業をしており、同居している家族の生活費をみている。
- 義父は、口調が荒く、厳しい性格。パートナーをしかったり、どなったり、叩くこともある。
- 生活費を出してもらっていることから、パートナーも相談者も、義父を逆なでしないようにしている。
- (5)相談者の家族
- 相談者の家族は、実母と義父の2人暮らし。
- 実父は、相談者が幼いころに実母とDVを理由に離婚。
- (1)相談者
- 2.収入・経済的状況
- (1)生活費は、パートナーの両親に頼っている。
- (2)相談者とパートナーは財布を共有している。
- (3)借金やローンはない。
- 3.パートナーによるDVの状況
- (1)パートナーとケンカをすると、助けを呼ばせないために、最初に携帯電話を取上げられ、パスワードを変更される。
- (2)ケンカは毎日あり、パートナーはつまらないことでキレる。口答えすると、さらに暴力がひどくなる。
- (3)パートナーは相談者からひと時も離れず、産婦人科への通院も同行してくる。
- (4)携帯電話は相談者名義だが、パートナーが勝手に見る。SNSもチェックされており、相談者の人間関係はパートナーが把握している。
- (5)出かけるときはパートナーがいつも一緒で、相談者は友達にも会っていない。
- (6)逃げても探されるので、逃げることはあきらめている。
- 4.相談経過(相談者の気持ちの推移)
- (1)相談開始当初の相談者の気持ち
- DV避難用のシェルターは監視がきついとネットで読んだので行きたくない。
- 家を出ることがわかると、パートナーが暴れると思うので、出ていくならこっそり出たい。どうすれば知られずに荷物を持ち出せるか。できれば、パートナーが外出する夜間に家を出たい。
- 子ども(パートナーの連れ子)と一緒に逃げるつもりはない。
- (2)出産間近~出産後の相談者の気持ち
- どうしていいかわからず迷うときもあり、みんなで幸せに暮らしたいとも思う。しかし、もう無理だ。保護してほしい。
- (1)相談開始当初の相談者の気持ち
●対応
- 初回の相談は、定期健診時に病室内で行う。家族状況、生活状況、逃げたいが逃げられないという考え、シェルターに対する拒否感などを把握する。
- 2回目の相談はその1か月後。同じように病室にて面談。前回の面談時間が約40分となったため、パートナーに怪しまれていないかを確認したところ、怪しんではいないが「遅いな」と不満げだったとのこと。今後の健診に差し支えてはいけないので、早めに切り上げることを確認。
この時、しきりに眠いと訴えたため、睡眠をとれるように入院措置を取れないか、医師に確認するも入院は難しいとのことであった。 - 2回目の相談の後、相談者から、パートナーの暴力が怖いと病院に訴えがあったため、病院から警察へ通報。警察が一時保護を実施した。しかし、相談者は数日で退所してパートナーの元に戻り、その後、相談は中断した。
- その後、5か月ほど経過し、病院から「相談者が出産後、逃げたいと言っているので、健診時にまた相談にのってくれないか」と要請があり、再び相談を受けることとなった。
- 3回目の相談では、相談者から、パートナーの両親との生活が息苦しく、パートナーからの暴力も止まないため、出産後に保護してほしいとの訴えがあった。このため、出産後の保護に至る具体的な方法について相談者に伝え、出産前にもう一度、面談を持つことを約束した。
- 4回目の相談では、相談者から、「一人で子育てをすること、パートナーから隠れて生活していくこと、自分の住所が簡単に知られることなどに不安を感じている。しかし、周囲も保護の準備をしてくれており、今さらやめたいとは言い出せない」、「無職だったパートナーが仕事に就き、貯金の心配をしており、優しさを感じている。そのようなパートナーの優しい態度は今だけだと分かっているのに、パートナーの元にいたいと思ってしまう」、「頭がいっぱいで、何も考えられない」など迷いが打ち明けられた。そこで、じっくり考えるよう促し、相談者の意思を尊重することを約束をして、出産前にもう一度面談の機会を持つことにした。
- 5回目の相談では、やはり保護してほしいということであった。出産後においても同様の考えであったため、保護の手続きに入り、一時保護を実施した。
●評価および今後課題
- 本事例では、病院内での出張相談を実施しているところに一つの特徴がある。DVといった場合、配偶者からの目があるため相談室での相談が難しいケースがあり、このように相談場所に配慮が必要となってくる。医療機関と連携がとれたなかで、本事例では対応がなされている。
- また、相談者が保護に対する拒否の感情を抱くことがよくあるため、丁寧な説明で保護後の対応についてイメージできるようにする必要がある。
- 本事例のようにDV自体が仕方のないことのように思っていたり、生活歴から慣れてしまっている場合の対処も難しいため、本来の生活の姿や権利について考えてもらう機会を持つことが重要である。
- 本事例では、相談者の自己決定が促せるよう丁寧な対応を重ねて、保護の決定を行っており、保護の対応についても各機関と連携をもって緊急的な対応を行っている例と言える。
●連携が想定される資源
- 病院(民間)
- 市女性センター及び市担当課(女性相談、DV相談、カウンセリング等)
- 市人権相談担当課(人権相談)及び人権文化センター(人権相談や生活相談)
- 大阪府女性相談センター(配偶者暴力支援センター。DV相談窓口・外国語も対応。DV保護)
- 子ども家庭センター(配偶者暴力支援センター。DV相談窓口。DV保護。母子父子自立支援員)
※大阪市、堺市、吹田市、枚方市の場合にも配偶者暴力支援センターがあります(2015年2月現在)。また、各市区町村にはDV担当窓口があります。 - 警察署(DV保護)
- 市子育て支援・保育担当課(助産制度、乳児の子育てや保育所入所の相談等) 市国民健康保険担当課(出産育児一時金申請)
- 市生活保護担当課(一時保護時の医療費、住宅扶助等)
- 市母子保健担当課及び市保健センター(心身の健康、育児・子どもの発達の相談、大阪府母子福祉推進委員等)
- 市住民登録担当課(住民基本台帳登録の閲覧制限、戸籍謄抄本に移動先住所の非記載)
- 移転先の市町村の各担当課(一時保護後に移転した先との連携)
- 福祉事務所(母子父子自立支援員、大阪府母子福祉推進委員、母子寡婦福祉資金貸付制度等)
- 大阪府こころの健康総合センター(暴力等による心的外傷後ストレス障害=PTSDの治療等)
●利用が想定されるサービス
- DVシェルター(公的、民間)
- 配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(DV防止法)
- 生活保護制度(就職までの一時利用)
- 公営住宅(今後の生活の場の確保。府営・市営住宅担当課)
- 母子生活支援施設(福祉事務所)
- 児童扶養手当制度(市担当課)
- ひとり親家庭等日常生活支援事業(社会福祉法人大阪府母子寡婦福祉連合会)
- ひとり親家庭生活支援事業(社会福祉事務所、社会福祉法人大阪府母子寡婦福祉連合会)
- 保育所(市子育て・保育担当課)
- 市保健センターや保健所(乳児の予防接種や検診)
- 就労支援(市地域就労支援センターや母子家庭等就業・自立支援センター、OSAKAしごとフィールド等)