アルコール依存症の長女による障がいのある親への暴力
<相談のあらすじと対応のポイント>
- キーワード:アルコール依存、障がい者支援
- 相談者:母親からの相談
- 家庭状況:母親(本人)70代半ば、長女30代半ばの二人暮らし。父親とは離婚し別居。離婚理由は不明。長男(40代、既婚。近所に居住)
- 相談の主訴:飲酒時に長女が、相談者である下肢に障がいのある高齢の母親に暴力を振るう。同居している長女はアルコール依存症で仕事を解雇され、失業中である。
家庭状況の図
●相談の経過
- 母親より日ごろ利用しているケアマネジャーに訴えがあり、地域包括支援センター(市)へ高齢者虐待で連絡が入る。
●相談内容および生活歴
- (1)相談につながった経路・きっかけ
- 以前から失業し、アルコール依存となった長女から暴力がある。自分には障がいがあるため、身の回りのことをすることで精いっぱいであるのに、長女の暴力により生活が成り立たない。できれば長女に自立してほしいが、アルコール依存のためそれも難しく悩んでいるという相談が、ケアマネジャーを通じて地域包括支援センターに入る。その後高齢者虐待ということで市の高齢福祉課で対応を行う。
- (1)背景・経緯
- 家庭状況
- 高齢で障がいを抱えた母親とアルコール依存の長女の2人暮らし。
- アパート住まい。
- 長男が近くにいるが、普段のかかわりは薄い。夫とは離婚後(2000年)から会っていない。
- 母親(相談者)
- 10年前の脳腫瘍の手術を行い下肢麻痺の状態で身体障害者手帳2級となっている。てんかん発作(年1回程度)もある。
- 言語でのコミュニケーションが困難であり、なかなか決断できない性格である。
- 障害者総合支援法での居宅介護サービスを週に2回受けている。
- 財産もあるため長女とは離れて生活したいという希望をもっている。
- 2年前にも一度、地域包括支援センターに相談をしているが、本人の意思から対応には繋がらなかった。
- 長女
- アルコール依存症である。依存の経過は不明だが、飲んでいないときは普通の人。
- 飲むとキレやすい。お金があると安心するタイプ。
- これまで肝機能障害等で何度か入院歴はあるものの、アルコール依存症の治療には本人の意志も乏しく、繋がっていない。
- 障がいのある母親を看ていく意志はあるが、アルコール依存症のため、失業のストレスもあいまって、お酒が入ると手が出ることがある。
- 10年ほど仕事に就いていたが、度々欠勤するなどの就業態度により解雇され、4年前に解雇となった。
- 近所に住む長男が母親と長女への支援・調整をしているが、忙しく出来ていない様子
- 家庭状況
●対応
- コミュニケーションを行っていくことの難しさのなか、相談者との信頼関係が構築され、今後の対応について話し合うことができた。高齢者虐待の事例ではあるが、虐待状況の緊急性および本人も保護を希望している状況ではないため、まずは在宅での支援を行っていくことを決定した。
- 毎日、長女と顔を合わせる環境が苦痛であるようなので、週に2回のディサービスの利用および定期的なショートステイを実施することとした。
- 財産管理について不安を抱えているため、司法書士による任意後見(リーガルサポート)を結ぶ
- コミュニティソーシャルワーカーが自宅へ訪問し、長女への相談・依存症治療に向けた就労などの支援を行う。
- 市、地域包括支援センター、ケアマネジャーにてケース会議を実施。
●評価および今後課題
- 高齢者虐待防止法での対応事例であるが、在宅での支援を決定する中でどのように母親への虐待の再発を防止していくかが重要となる。
- 継続的な支援として、介護サービスの実施を行うとともに、長女へのアウトリーチを通した治療への支援を展開していくことが重要である。母親が緊急的状況になった際にすぐに連絡できる体制や日常的な見守りネットワークの構築、また長男へのアプローチなども今後重要となってくる。
- 長女への支援は、CSWを中心に実施が行われているが、アルコール依存の支援団体などとも連携しアウトリーチの姿勢で臨み、治療の実施につなげていくことも必要かと思われる。介護保険サービスと障害者総合支援法上のサービスの両方に跨るため、市のなかで調整が必要となってくる場合もある。
●連携が想定される資源
- 地域包括支援センター
- 市社会福祉協議会および校区福祉委員
- 民生委員
- 見守りネットワーク
- ケアマネージャー
- リーガルサポート
●利用が想定されるサービス
- 高齢者見守りネットワーク
- 介護保険サービス(ディサービス、ショートステイ)
- 障害者総合支援法(居宅介護サービス)
- 財産管理委任契約