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・・・・・ H29(2017)年度 第5回 ・・・・・

知的障がいの多様性を知り、

バリエーションのある支援を

社会福祉法人 大阪手をつなぐ育成会

常務理事  小尾 隆一 さん

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知的障がいの法的定義がない日本

 

 

知的障がい者という言葉は一般的に使われていますが、実は日本には「知的障がい者」という用語に対する法的な定義はありません。ただし、国が実施した知的障がい児(者)の基礎調査(平成17年に実施)では、「知的機能の障がいが発達期(おおむね18歳まで)にあらわれ、日常生活に支障が生じているため、何らかの特別な援助を必要とする状態にあるもの」とされています。つまり、現在の日本における「知的障がい」とは、発達期までに生じた知的機能の障がいにより、日常生活を送るのに支障があって、何らかの支援を必要としている状態をさします。こうした日本の知的障がいの位置付けに対して、国際的には精神障がいの一部として知的障がいが位置づけられています。

 さて、日本では「発達期の障がい」とされているわけですが、当然、18歳を過ぎても同じような状態である人は少なくありません。具体的には「発達期の障がいである」「知能が低下している」「社会的不適応を起こしている」の3要件が揃えば、実務上、知的障がいであるという認定がなされています。




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多様な障がいに対する支援のバリエーションが必要

 

ところが発達期を過ぎてから交通事故や病気で脳の障がいを負った場合も、同じような状態になるわけです。その人たちをどう位置づけるのか。新しい概念として「高次脳機能障がい」という障がい名が生まれました。あるいは、知能検査で測る知能は低下していないが社会的不適応がある、すなわち何らかの支援が必要な人たちも増えています。こちらは「発達障がい」といわれるようになりました。やはり支援が必要です。一方で、ダウン症の人は知能の低下がみられ、知的障がいとみられますが、療育や訓練によって日常的な支援を必要としない人たちもいます。さらに今、認知症の方が増えています。高齢になった多くの方が認知症になりますが、やはり知的能力の低下があり、社会不適応を起こします。ニーズとしては共通する部分が多々あります。

 このように非常に多様な人たちがおり、支援にもバリエーションが求められます。しかし現状はといえば、社会がバリエーションに対応しきれていません。さらに、知的障がいの制度が障がいの重い人に偏っており、軽い人が利用できるサービスがあまりありません。そのため、知的障がいの認定を受ける人が少なくなり、社会的不適応が放置されるということが起こっています。また、自分の状況をうまく説明できないという知的障がいに特有の傾向があるため、施策に結びつきません。ちなみに身体障がいのある人に対しては、障がいの軽い人にも利用できるサービスや福祉のまちづくりのような環境が比較的整ってきています。



sub_ttl00.gif 障がいがあっても働ける要件とは

 

  

 

私は元々、大阪府の職員でした。最初に配属されたのが知的障がい者の更生相談所で、心理判定をしたり相談を受けたりしていたのです。配属されてすぐに、相談所にストックされている約5000ケースを詳細に分析するという実態調査をおこないました。すると、けっこう障がいの重い人が就労していることがわかったのです。なぜ働けるのかという分析もしました。

 そのなかで、障がいの重い人が働くために必要な要件が見えてきたのです。まず健康が大事。次に仕事があるかどうか。仕事を細分化していくと非常に単純な業務になります。そうした業務があるか。そして社会や家族が本人に要請するかどうか。さらに仕事以外で困った時、家族的なサポートがあるか。この4つの要件が整えば、障がいの重い人も働けます。そういう事例がたくさんありました。この調査が今も大阪府のさまざまな施策に生きていますし、私の仕事の原点にもなりました。



sub_ttl00.gif 「決めるのは、わたしです」を支援の原則に

 

  

 

障がいの軽い人なら、仕事や社会参加の幅がさらに広がるはずだと考え、取り組みを始めました。そのひとつが「わかりやすい情報提供」です。『障害者虐待防止法』や『障害者総合支援法』の「わかりやすい版」として、イラストや言葉の表現に工夫をしたものを作りました。ルビも大事ですが、「抽象的な表現を避ける」「難しい言葉は使わない」「具体的な情報を入れる」などの配慮が必要です。そのノウハウを「わかりやすい情報提供のガイドライン」としてまとめました。最近はピクトグラムが注目を集めていますが、これも抽象度が高くて理解できない人がいます。私は基本的に、物事を理解するには解説をつけた映像が一番いいと考えています。今はテレビや動画に、登場人物の気持ちや状況の説明を入れるという取り組みも始めています。たとえば「いつでも来てください」という言葉は、場合によっては社交辞令であることを伝え、社会生活に生かしてもらうのです。

 そして最も大事なことは、本人の意思や思いであることを忘れてはなりません。「大阪府 知的障がい者のためのガイドヘルプサービス支援マニュアル」にはこうあります。

・助けてほしいことや、してほしくないことは、一人ひとりちがいます。

・勝手に決めないで 何でもまず、わたしにきいてください。

・決めるのは、わたしです

 この支援の原則を第一にしながら、知的障がいのある人とともに生きる社会とはどんな社会なのか、みんなで考えていきましょう。

H29(2017)年9月掲載