新着情報




murai2.jpg









・・・・・ H29(2017)年度 第3回 ・・・・・

法律の積極活用で、差別解消の取り組みと

社会的条件整備の前進を

~部落差別解消推進法の意義と考え方

一般財団法人 

大阪府人権協会

相談役 村井 茂 さん

sub_ttl00.gif

部落差別の存在や解消を明言した法の誕生

 

 

2016年12月、部落差別解消推進法が公布、施行されました。議員立法による、いわゆる理念法であるため、財政措置などの具体的な取り組みの裏付けがなく、悪質な差別行為の規制や被害者の救済などは定められていません。しかし私は、この法律の意義を積極的にとらえ、活かしていくべきだと考えています。

積極面は沢山あります。まずは、部落差別の解消を名称とした法が初めて誕生したことです。次に、現在もなお部落差別が存在することを明確に認知したことです。さらに、法律として初めて「部落差別解消」を明記しました。「部落差別は許されないもの」であり、「部落差別のない社会を実現することを目的とする」と法律に明記されたのは、この法律が初めてです。また、以前の同和対策事業特別措置法(1969年~2002年)いわゆる「特措法」のようには期限を定めず、部落差別の解消に関する施策を講ずることを、国及び地方公共団体の責務としました。

そして、この法律は、いわゆる「理念法」ではありますが、重要なポイントが明記されているのも評価できます。部落問題に関する「相談体制の充実」「教育と啓発」「実態の把握」です。部落差別の存在や、その解決が国の責務であることは、1965年に出された同和対策審議会答申(同対審答申)でも示されたことです。しかしこの「理念」を明確にした法律の制定には至らないままでした。今回、その理念が明確に法律になったという意味では、きわめて意義深いと思っています。




sub_ttl00.gif

悪質さを増す部落差別とどう向き合うか

 

一方で、「特措法」終了後の15年間をみると、むしろ部落差別の現実は悪質さを増してきました。まず、非常に確信犯的な差別事例が増えています。従来の差別事件では、背景に多く無知や誤った知識がありました。そして指摘を受けることで、謝罪や学びにつながるというケースがほとんどだったのです。しかし現在は、相手を貶め、傷つける差別行為だと自覚したうえでおこなう差別事例が現れています。

 煽動型の差別も出てきました。たとえばインターネット上で被差別部落の所在地を示した『部落地名総鑑』のようなものや、運動団体等のメンバーの名前や住所を無断で公開し、まさに差別をばらまくというようなことが起こっています。特にネット上には差別書き込みが氾濫しています。また、業者によって差別身元調査や土地調査が行われる事も続いています。

こうした確信犯的な、あるいは煽動型、愉快犯的な差別に対して、どう対応していくのか。法的な規制や救済のシステムの整備が必要なのですが、今回の法の活用で前進させていくことが必要です。



sub_ttl00.gif 「寝た子を起こすな」では解決しない

 

  

 

そのためには、まず相談体制の充実と教育・啓発の推進、実態の把握が具体的に取り組まれねばなりません。しかし残念なことに、近年、部落問題に対する取り組みは落ち込み傾向にあります。府内のある大学が学生を対象に調査したところ、大阪など、これまで取り組みの先進地域であったところの学生が「大学入学までに一度も部落問題について学んだことがない」と回答した者が他県出身者より多かったとのことです。非常に残念に思いましたが、それが現実です。

また、部落問題をどう教えるのかということに迷いや戸惑いをもつ先生も少なくありません。今回の法律に対する反対意見のなかにも、「部落問題を教える時、被差別部落の存在も教えるのか。それによって新たな混乱や差別を生み出すのではないか」というものがありました。「だからそっとしておくのがいい。教えなければ差別もなくなる」という、いわゆる「寝た子を起こすな」式考え方です。同対審答申が示したようにこの考え方は誤りですが、今回の法制定により、この点が明確になりました。


 私は「被差別部落はない」「部落差別はない」と答えることは間違っていると考えています。歴史的、社会的に被差別部落と見られている地域が現に存在し、そこに暮らす人びとや出身者に対する不当な差別が存在しています。一方で地域の人たちが差別と闘ってきた歴史や文化もあります。その事実ははっきりと伝えたうえで、「この差別は不当なもので、だから国や自治体、国民が力を合わせて差別の解消のために努力しているんだ」「部落問題とは、そういう現在の社会問題だ」と教えて、しっかりとした認識、反差別の世間を大きくしていくことが重要なのです。



sub_ttl00.gif カミングアウトとアウティングは違う

 

  

 

「被差別部落の所在地情報問題」には、3つの側面があります。

ひとつは、あきらかに差別するための道具になるという側面。

次に差別解消に取り組むために必要な情報という側面。行政資料や当事者の運動団体などが、たとえば被差別部落の様々な実態や、どんな歴史や文化があるかという記録の文献を差別解消を目的に制作したりします。

3つめは、水平社運動以来の、当事者の人たちの「部落解放」の思想です。すなわち、「胸をはってふるさとを名乗りたい」という思いです。部落解放とは「部落(同和地区)」であることを隠しわからなくすることではなく、同和地区との関わりにおいて差別が生じない社会を実現することである。ふるさとが同和地区であることを否定的に感じるのではなく、そのようなことで人間を冒涜する差別を憎み、社会を変えようとの考え方です。最近はカミングアウトとも表現されます。カミングアウトは、差別と闘おうとする自己変革であると同時に「この人たちなら、自分の思いを受けとめてくれる」「連帯してくれる」という期待をこめた希望の行動で、信頼に基づく行為です。

 正当な目的や当事者の同意なく、第三者が、不特定多数の人びとに、差別につながるような極めて慎重に取り扱うべきセンシティブな情報を一方的に暴露する行為はアウティングといい、人権侵害です。

今日的な差別と闘っていくために、部落差別解消推進法は大きな力になるはずです。そうなるように取り組むことが必要です。まずは、この法律が制定されたことが、みんなが知っている状態にするように、広く伝えていくことが重要でしょう。



H29(2017)年8月掲載