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・・・・・ 第114回 ・・・・・

「見た目」で受ける

さまざまな不利益を伝え、


なくしたい



アルビノ・ドーナツの会

代表 薮本 舞 さん

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就職支援を受けられなかったショック

 

 

  アルビノとは先天的に皮膚や髪のメラニン色素がないという特徴があることです。その度合いは人によって違います。弱視などの障がいのある人もいます。私の場合、視力は概ね0.1?0.2程度で、幼少期は地元の盲学校で教育相談を受けていましたが大学までいわゆる一般教育を受けていました。

 自分の髪や肌の色がほかの子に比べて白いということは自覚していましたが、からかわれたりいじめられたりすることはなく、視力も含めて何かとハンディキャップはあっても努力で乗り越えられました。ですから自分のことを「障がい者」として意識することはありませんでした。とは言っても高校時代には髪の色を理由にアルバイトの採用を断られることもあり、嫌な思いをすることが増えてきました。そして大きな壁にぶつかったのは大学時代に就職活動を始めた時です。就職担当課の職員に、開口一番「障がい者手帳は持っていますか」と訊かれました。アルビノとしては障がい者手帳は取得できませんが、私は弱視なので視覚障がいの手帳を持っています。そのことを言うと、「障がい者雇用の枠のなかで探すしかない」という決めつけのもとで話が進められました。

 私の気持ちや希望を聞くということはまったくなく、とても傷つきました。その時初めて「こんな経験は自分だけ? ほかのアルビノの人たちは自分の人生に満足できているの?」と疑問を感じ、自分以外のアルビノの人たちとつながりたいと考え始めました。

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当事者がつながることの大切さを実感

 けれどもアルビノの人たちと出会うのは簡単なことではありませんでした。両親や親戚にアルビノはいませんし、大学も含めて学校でアルビノの人と出会ったこともありませんでした。盲学校や日本ライトハウスに問い合わせをしましたが、個人情報にあたるため詳細は答えてもらえませんでした。

 初めてアルビノの人と会った時のことは今も忘れられません。たまたま年が近い女性で髪や肌の色も似ていたので、鏡を見ているような不思議な気持ちでした。初対面なのに、少し話をしただけで「そうそう!」とお互い共感できるところがいろいろありました。たとえば、彼女もアルバイトを探すのに苦労したそうです。けれど親戚や後輩などの紹介で家庭教師などをやっていて、「そういうやり方もあるのか」と参考になりました。

 彼女と出会って居場所や情報の大切さをあらためて感じ、「アルビノ・ ドーナツの会」を立ち上げました。2008年1月に最初の交流会を開くと、大人から子どもまで約20人の参加者が集まりました。アルビノの子どもを育てている親御さんは「こういう集まりを待っていました」と喜んでくれました。「アルビノの人は成人するまで生きられない」というデマがネット上に流れる一方、実際に成人したアルビノの人たちと出会ったことがなく、不安を抱えながら育児をされていたのです。「アルビノの人が働いて社会生活を送っている姿を知り、安心しました」とメールをいただき、本当によかったと思いました。

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思春期を迎えた子どもたちのつながりも

  活動を始めて7年が過ぎ、学校の先生や行政の職員のみなさんに研修や講演をさせていただく機会も増えました。交流会も回を重ね、年々仲間が増えています。幼かった子どもたちが成長してきたため、あらたに思春期の子どもたちだけの集まりを始めました。自分の経験からも、何でも話せる同世代だけの場が必要だと考えたからです。2014年夏に1泊2日で開催したところ、12人の中学、高校、大学生が集まりました。時間とともに緊張が解け、昼食後にもうけた交流の時間には進学やアルバイトなどについての悩みが話し合われ、聞いていた私も胸がいっぱいになりました。青春をイメージして名付けた「アルビノ甲子園」を今後も続けていきたいと考えています。

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アルビノ特有の「しんどさ」を伝えていく

  アルビノの当事者としてつくづく感じるのは「中途半端さ」です。視覚障がいがあれば福祉制度を利用できますが、「白い」という見た目だけでは使える制度がありません。けれど「白い」ことを理由に就職をはじめさまざまな差別、偏見があります。たとえば働いている人のなかには「金髪の人が入るようになったら、うちの会社も終わりだな」と聞こえよがしに陰口を言われた人や、同じく髪の色を理由に降格された人がいます。体の機能そのものに問題を抱えているわけではないので障がいとしては軽視されがちですが、実際にはさまざまな不利益を受けています。そのため上の世代の人たちは「文句を言われないように」とものすごく仕事をがんばる傾向があります。私はそうしたしんどさを下の世代に引き継ぐのではなく、アルビノのことをきちんと知ってもらうことで偏見や差別をなくしたいと考えています。

 最近は企業からも研修依頼をいただくようになりました。就職活動で受けたショックが私の活動の原点でもあり、今も悩んでいる人がたくさんいます。これからも教育、行政、そして企業の現場に私たちの声を届けていきたいと思っています。

(2015年2月掲載)