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・・・・・ 第112・・・・・

子どもの話を聴き、子どもの力を信じる。

NPO法人西淀川子どもセンター

代表理事 西川日奈子 さん 

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子どもたちから学んだ「原点」

 

 

 西淀川子どもセンターは、子どもへの暴力防止活動である「CAP」、子どもたちが安心して相談できる場をつくり、相談等を行う「ぽぴんず活動」、子どもへのサポートを広げるための「よっしゃ活動」の3本柱で活動をしています。子どもが自分自身を大切な存在と感じ、安心して暮らすための「地域に根ざした子ども支援」を行っています。

 「自分自身を大切な存在と感じる」。言葉にすれば簡単ですが、不適切な養育環境を生きてきた子どもにとっては簡単なことではありません。子どもたちと話していて感じるのは、自信をもてずに育ってきたことです。小学校の低学年から勉強がわからなくなり、ずっと教室で寂しい思いをしてきた子。親や教師からほめられたことがなく、きちんと言い分を聴いてもらったこともなく、「どうせダメやもん」が口ぐせの子。両親のケンカやDVに気付いていながら、不安や心配を押し隠している子。それぞれに傷つきと不安を抱えながら生きてきたのです。

 私がそのことに気づき、「子どもの話を聴きたい。子どもが安心して話せる人と場所が必要だ」と感じたのは、CAPの活動からでした。学生時代は子どものキャンプ活動にボランティアで関わり、卒業後は中学校で英語を教えながらやんちゃな子どもを追いかけるような"熱血先生"でしたが、どこか「子どもは大人が守り、教える存在」という"上から目線"の意識がありました。そのことに気づかせてくれたのは自分の3人の子どもたちであり、子育てやCAP活動を通じて出会った子どもたちでした。

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「毎日開いていると思うだけで安心する」

 

  

 子どもはそれぞれにすごいものをもっています。けれど不適切な養育環境のなかでその力をつぶされたり出せなかったりする子どもたちがいます。そのしんどさを暴れたりひきこもったりするという形で表現するのです。  

 西淀川区で保護司を12年間務め、少年院から戻ってきた子どもの受け皿がないことにも気づきました。何よりも大きな問題に巻き込まれる前に、子どもたちのサインをキャッチし受け止めたい。それも子どもたちの生活の場である地域でやらなければと考えました。

 まずは2007年、西淀川区アクションプランに参加し、地域で昔から知っている人や活動をしている人に声をかけました。近くの会館の一室を借りたのですが、「部屋で待っていても子どもは来ない」と会館の前で日よけのパラソルを広げ、「おかえり」と下校する子どもに声をかけることにしました。最初は不審そうだった子どもたちも、しばらくすると私たちの顔を覚え、話をしてくれるようになりました。

 翌年、大阪市の空き住居有効活用の団体に選ばれ、近くの団地の一室を借りることができました。そこで週2回「ぽぴんず文庫」を始めると、ある子が「毎日開けてほしい」と言うのです。「自分は毎日来ないけど、毎日開いてると思うだけで安心する」と言われ、「よっしゃ」とその気になりました。1口1000円で賛助会員を募り、50人ほど集まったところでスタートしたのです。

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他愛ない話の背景にあるもの

  最初に3本柱をご紹介しましたが、私たちが一番大事にしたいのは「相談」です。でも子どもは「相談窓口」などと掲げても来ません。ですから「おしゃべりしよう」「宿題を一緒にやろう」と呼びかけるのです。「子どもが話なんかしますか?」と言われることもありますが、「何を話しに来てもいいよ、待ってるからね」と言うと、子どもは好奇心をもって来てくれます。最初は他愛のない話しかしません。小学4年生の女の子たちのグループではずっと好きな男の子の話ばかりでした。「これ以上好きになったらどうしようって不安になるぐらい好きやねん」と何度も言うので、「そういう話は家ではしないの?」と聞くと「全然でけへん!」と返ってきました。そこから両親のけんかの話になり、「またけんかになったらと思うとすごくドキドキする」と1人の子が言うと、もう1人の子も「実はうちもそうやねん」と。そして「おとうさんたちは隠してるつもりやけど、全部聴こえるもんな」と言い合っているのです。そうやって子どもたちは本当にしんどい部分に他のことでふたをしたり、ほかの場所で発散したりしているのです。

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その子の人生を代わることはできない

  2014年5月から、子どもたちとスタッフが一緒に夕食をつくって食べる夜間サテライト事業「いっしょにごはん!食べナイト?」を始めました。夕食時に親が仕事でいないなど、さまざまな事情を抱えた子どもたちと、私たちのサポーター養成講座を修了したスタッフが、一緒に夜を過ごします。にぎやかに過ごした後、送って帰る道でポツンポツンと出てくる寂しさやしんどさや甘えを若いスタッフがとまどいながらも受け止め、その後ろで私たち中高年のスタッフが支えます。

 大事なのは「こちらの思いだけで安易に踏み込まない」ことです。しんどい内容であればあるほどおとなは「助けたい」と思います。けれどその子の代わりに生きることはできません。その子の力を信じて、「でも話をしたくなった時や情報がほしい時はいつでも来てね」というメッセージを送り続けたいと考えています。

 財政的にはかなり厳しいですが、若いスタッフが集まり、応援してくれる人たちの輪も広がってきています。私たちの取り組みがひとつのモデルケースとなり、校区ごとにこうした「子どもの居場所」ができることが私の夢です。

(2014年12月掲載)